post by nishimura at 2018.3.20 #214
戸籍 マイナンバー 連携 個人単位の国民管理 家単位の国民管理
学習会「戸籍へのマイナンバー導入は何をもたらすか」記録
その2 講演 : 遠藤正敬さん
「家単位」の国民管理 vs 「個人単位」の国民管理
問題だらけの「戸籍」制度と問題だらけの「マイナンバー」。この2つを連携したとき、いったい何が起きるのでしょうか? 戸籍を専門とする政治学研究者遠藤正敬さんは、この連携を「日本人が初めて経験する『個人単位の国民管理』」だと指摘しています。2017年10月26日の学習会の全記録から、遠藤さんの講演を収録。
I 戸籍は個人よりも国家のための制度
» I 戸籍は個人よりも国家のための制度
» II 戸籍形成の歴史――家・戸籍・国体
» III 「日本人の証明」としての戸籍
» IV 取り残される無戸籍者――マイナンバー導入の谷間
» V 戸籍なくしては生きられない?――現実における戸籍の必要性
» VI マイナンバーと戸籍の連携の意味は何だろう?
» VII 懸念される、マイナンバーの利用範囲拡大
司会 原田さんの、法務省戸籍制度研究会「まとめ」についての報告1 に続いて、戸籍研究者の遠藤さんから、お話をうかがいたいと思います。今日の資料の最後のページに書評が載っていますが、遠藤さんは最近『戸籍と無戸籍 日本人の輪郭』2 という本を出されていまして、戸籍制度を専門とする研究者から見たマイナンバー導入の問題について、お話しいただきたいと思っています。遠藤さんのレジュメ3 がお手元にありますので参照してください。
遠藤 ご紹介にあずかりました遠藤と申します。今日の資料では、早稲田大学台湾研究所非常勤次席研究員という長たらしい肩書ですが、3秒で言いますと非正規労働者ということです。なんとか大学教授ではありません。
で、私の専門は政治学とか政治史でして、政治学を考えるテーマとして戸籍とは何なのかを考えているわけです。戸籍というものは、国家と個人の権力関係、排除・強制の関係を非常によく映し出しているものです。
戸籍は、長い歴史の間「排除」を実践してきた
あっけなく終わってしまった、先日の総選挙(2017年10月の衆議院議員選挙)ですが、こうしたマイナンバーとか戸籍の問題については、個人にとってはかなり切実な問題であるにもかかわらず、選挙の争点になることは望み薄ですよね、票に結びつかないこともありますが。
あと、今回の選挙の総括で気になったのが、鳴り物入りで旗揚げした希望の党が失速して、期待外れの結果に終わった。これについて、民進党の人たちに対して「排除する」という発言がマイナスイメージを植え付けた、というところです。
それも奇妙な話でして、「排除」ということばでそんなに不快感を持つほど今の日本社会は健全な理性を持っているのかな――と思います。だって、いちばん「排除」を前面に押し出している政権が安定してまた勝利を得るわけですから。
「排除」ということでいえば、日本の法制度において、これほど長い歴史の間「排除」というものを実践してきた制度が戸籍であろうと考えるわけです。
今日はマイナンバーとの関係ということですが、マイナンバーとは何かということ、現在の戸籍とどう関係しているかということについては、今、原田さんから詳細なお話がありましたので、私はむしろ、戸籍というものがそもそも歴史的に思想的にどういうものであったのかということを、マイナンバーとの関係でお話しできればと思います。
個人単位と家族単位の両面性を持つ、マイナンバーと戸籍の連携
まず初めに、国家による国民管理は、個人を単位とした科学的な方法へと向かっています。
マイナンバー制度というのは、まさに科学を基軸とした国民管理の典型であろうと思います。で、そのマイナンバーというのは、日本国民が初めて経験する、「個人単位」の情報管理システムです。
古来、日本で実施されてきた戸籍というのは、「戸籍上の家族」を単位とした国民管理装置でした。だから、マイナンバーと戸籍は、「個人単位」と「家族単位」という好対照の制度です。
今では国民にとって存在意義が希薄になっていると思うのですが、一方で出自などの重要な個人情報を収集している――そういう両面性を持つ戸籍というものを、マイナンバーと連携して利用することで、制度としてどんなことを企てているのだろう……そういうことを念頭に置きつつ、改めて戸籍制度の特質と必要性を、かなり駆け足ではありますが、お話ししたいと思いますのでおつきあいください。
いくつかの国の身分登録制度
日本の「戸籍」は個人よりも国家のための制度
まず、そもそも戸籍とは何かということなんですが、これは個人よりも国家のための制度です。
国家は統治上、国民の登録を必要とするわけです。どんな方法であれ、国家というものは国民の身分登録というものを不可欠とする。まず個人の識別、家族関係の確認、権利義務関係の把握――そういった目的ですね。特に日本の戸籍に関して言えば、日本国民の出生、死亡、婚姻などを、「戸」を単位として登録する身分関係登録であるということですね。
よく「戸籍というのは世界的に見ると日本だけのものなんですか?」という質問が出るのですが、日本だけだと言っていいと思います。
中国の「戸口登録」(居住登録)
中国にも戸籍があるといわれますが、中国の戸籍は日本の戸籍とだいぶちがいまして、正確には「戸口(ここう)登記」という名前なんですが、それを便宜上、戸籍と呼んでいます。実質は居住登録ですね。基本的には住んでいる場所で戸籍が作られる4。
台湾の「戸籍」(世帯登録)
台湾では現在も戸籍法が継続して実施されていますが、台湾の戸籍もまた日本の戸籍とはだいぶちがっていまして、「世帯単位」で登録するという形です。一人世帯ですとか家族の世帯ですとか、現実の生活に即した単位で登録するということで、日本よりはだいぶ柔軟な制度であろうと思います。
韓国の「家族関係登録」(個人単位)
韓国は独立解放後も、日本統治時代の戸籍を引き継いで、これを基盤とした戸籍制度がしばらくありましたが、2008年に廃止されています。現在は「家族関係登録」という、個人ごとに婚姻や養子縁組などいくつかのことを登録するという形になっています。
西欧の身分登録(個人単位・事件別)
西欧の身分登録というのは、基本的に個人単位・事件別です。婚姻登録、出生登録、死亡登録、そういう形です。これは中世まであった教会簿という、洗礼を受けた者を個人ごとに出生や婚姻を教会の籍に登録するということが行われていて、その名残で個人単位の登録が定着した。
アメリカには全国統一の身分登録制度はない
アメリカでは、ご存知でしょうが、全国統一の身分登録法というのはないのですね。州ごとになにがしかの登録はやっておりますが、日本の戸籍のような統一された身分登録はないのですね。
日本の身分登録(戸籍)の3大原理
日本の戸籍の持つ3大原理として言えることは、
1) 家の登録
2) 日本人の登録
3) 臣民の登録
この3つが挙げられると思います。これが、「世界に類を見ない」といわれる日本の戸籍制度を特徴づけるものだと思います。
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