マイナンバーはいらない

post by nishimura at 2018.3.20 #213
戸籍 マイナンバー 連携 法務省戸籍制度に関する研究会

学習会「戸籍へのマイナンバー導入は何をもたらすか」記録
その3 質疑討論
日本人が初めて経験する「個人単位」の国民管理をめぐって

 「戸籍とマイナンバーの連携」には「家単位」と「個人単位」の国民管理という両面性が含まれていると、遠藤正敬さんは講演で語っていましたが、学習会の質疑応答では、それだけでなく「戸籍制度の維持」もまた意図されていることが見えてきました。2017年10月26日の全記録から質疑応答部分を収録。

I 韓国の戸籍制度廃止のモデル

*会場からの質問・意見などについては、発言ごとに「会場発言」と表示しました

司会 さきほどは遠藤さんの近著、『戸籍と無戸籍』を紹介しましたが、無戸籍者ということで言うと、井戸まさえさんの本もこの10月に岩波新書から出ています。『日本の無戸籍者』1 です。この本の中でも遠藤さんの本からいろいろ引用しております。ぜひ合わせてお読みいただければと思います。
 それでは、質疑応答に移っていきたいと思います。

戸籍以外の住民登録の方法は?

会場発言 われわれの責任だと思うのですが、現在の戸籍制度を抜本的に変える――例えばヨーロッパのように地域の住民登録法のような形に変えるという場合にですね、もしよかったらこういう形もあるんじゃないかということですね、実際にそうなるとかなり革命的なことなので、例えばこういう方法の住民登録法に変えるということがあるのじゃないかというお考えがあれば、教えていただきたいと思います。
遠藤 確かに戸籍を個人単位にすることには革命的な意味があると思います。敗戦後、民法学者の我妻栄などもそう言っています。ただやっぱり、マイナンバーと紐づけするとき、当然、個人単位の方が便利なんじゃないのという議論は、法務省内でも出ていると思うんですね。
 個人単位の戸籍のひとつのモデルになるのは、韓国みたいに、登録の単位は個人にして、個人ごとに婚姻なり養子縁組などの事件ごとに登録をさせる。確かに1枚の紙でそれらがわかる今の戸籍は便利かもしれないけど、韓国も家族関係登録法が施行されてからかれこれ10年近くなるのですが、そんなに大きな混乱が起こったという話も聞きません。やはり韓国のようなモデル2 は学ぶべき点はあるでしょう。

韓国での戸籍制度の廃止について

会場発言 私は、韓国で戸籍制度がなくなったというところの経緯がどうなっていたのか、すごく興味があるのです。韓国は日本と同じく家族意識は強いと思うのですが、戸籍には日本とちがって「本貫(本)」3 というのがずっと記載されていた。韓国の戸籍はもともと日本が押し付けた制度ということもあって、廃止がスムースにいったのかなという気はしますが、韓国で戸籍制度を廃止するにあたって、どういう運動があったのか? 上からなくしていったのか?――詳しくわからないのですが、その辺の維持したい側と抵抗する側のどういう関係で廃止にいたったのか、ご存知だったら教えてほしいのですが。

女性の草の根「戸主廃止運動」と憲法裁判所の判決

遠藤 詳しいことは私の『戸籍と国籍の近現代史』4 という本にも書いています。
 韓国では1960年、朴正𤋮(パクチョンヒ)政権のときに韓国民法が施行され、戸主制度が定着した。これは、日本の家制度みたいに戸主に強大な権限を持たせるものです。それと、朝鮮の伝統的な家族法として「同姓同本不婚」、姓と本貫が同じだと婚姻できないという、かなり女性の権利を狭めるところがあった。
 なので、おもに女性から草の根の「戸主制度廃止運動」みたいなものが起きるのですね。韓国が1987年に民主化して以降、大統領選挙のときも民法・戸籍制度の廃止というのも争点になるくらいで、いわば下からの運動で盛り上がっていきます。そして2005年に韓国の憲法裁判所が、戸主制度は憲法違反であるという判決を出して、それで立法が動いて2008年に戸籍法が廃止になった――という経緯だったと記憶しています。

「父親の姓を受け継いでいる」こと、「住民登録番号」との紐づけ

司会 韓国では今おっしゃったような形なんですが、象徴的なのは戸主だけの姓を受け継いでいく、父親の姓を受け継いでくるというのに対して、そうじゃない、父方と母方の両方があるだろうということで、姓をダブルにして例えば「リ・キム」とかを名乗るというような運動も起きていたりします。
 それから戸籍はなくなって家族関係登録制度にはなったのですが、その家族関係登録に住民登録番号が付番されちゃっている。そのため住民登録制度と家族関係登録制度はお互いに紐づけされちゃっているということはあります。
Note

*1 井戸まさえ『日本の無戸籍者』2017.10 岩波新書

*2 たとえば趙慶済 »「資料韓国の新しい身分登録法『家族関係の登録等に関する法律』」などで、この法律の日本語訳を見ることができる。

*3 「本貫(本)」は、日本植民地時代以前の伝統的な「戸籍/家族制度」に由来するもので、一族(氏族)集団発祥の地を表すといわれている。現在の家族関係登録制度でも記録される情報項目に含まれている。注*2を参照。

*4 遠藤『戸籍と国籍の近現代史』2013.9 明石書房、p.290

◯構成・脚注:いらないネットWebエンジン(NT)/校正協力:TK

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