マイナンバーはいらない

post by nishimura at 2018.3.20 #213
戸籍 マイナンバー 連携 法務省戸籍制度に関する研究会

学習会「戸籍へのマイナンバー導入は何をもたらすか」記録
その3 質疑討論
日本人が初めて経験する「個人単位」の国民管理をめぐって

 「戸籍とマイナンバーの連携」には「家単位」と「個人単位」の国民管理という両面性が含まれていると、遠藤正敬さんは講演で語っていましたが、学習会の質疑応答では、それだけでなく「戸籍制度の維持」もまた意図されていることが見えてきました。2017年10月26日の全記録から質疑応答部分を収録。

III 戸籍とマイナンバーの連携の不利益と利益

*会場からの質問・意見などについては、発言ごとに「会場発言」と表示しました

戸籍へのマイナンバー導入による不利益――犯歴情報の問題

会場発言 2017年10月6日付の「週刊金曜日」の記事7 だと、警察や公安機関が個人番号を扱える上、通常の情報連携を通すことなく情報収集は可能、さらにその検証は行われない構造が認められているということだそうですが、こういう状況でマイナンバーが戸籍と連携されると、われわれに対してどういう不利益が起きるのでしょうか?
遠藤 そんな記事が出てましたか。
会場発言 私が書いたんですが……。

犯歴照会が懸念される

遠藤 そうですか、すみません、拝見してませんでした。まさに自分の予測していたことという感じですね。報告の最後の方で述べましたけれど、やっぱり警察や検察がマイナンバーを利用するときに、さっき説明しましたように前科があるかないかとか、再犯の防止のために前科者を監視するとかいう形で犯罪人名簿をいかにうまく利用して所在をつかむか、追跡するか。そういうときにマイナンバーが戸籍と連携することで、本籍という形がコードになってさまざまな情報をたどれるようになると、本籍地で管理している犯罪人名簿を情報ネットワークに流して警察や検察がそれを利用するようになるかもしれないですね。
 わたしもその辺の技術的なところは、どこまで可能なのか、かなり想像で今話してますが、そういう犯歴照会などが戸籍を通じたマイナンバーの利用の中でいちばん懸念されるところだと思います。
 これ以上のことは、書いたご本人にお話しいただいた方がいいかもしれませんね。

警察などのマイナンバー利用は、検証されることがない

会場発言 「週刊金曜日」の記事は私が書いたんですけど、住基ネットの情報とちがってマイナンバーの情報って番号法の中で、通常はさっきから出てきている情報提供ネットワークの中で飛び交う情報は、直接マイナンバーでやり取りされるわけではなくて、個人が特定されないような符号という形で情報が連携されるわけです。
 警察関連の犯罪情報であるとか、そういうものっていうのはその「情報提供ネットワーク」を通さないで、直接、情報のやり取りをしてもかまわないということが、番号法の19条8 に書かれています。ですから、そこが住基ネットとのいちばん大きなちがいです。基本、住基ネットの場合はそういうことに使うことはぜんぜんできなかった。
 ところがこの個人番号というのは、法的に、警察がそういう形で扱うことができるという仕組みを持っているということが、いちばん大きな問題じゃないかと私は思っています。とりあえずは証拠として押収したものに番号がついていた場合には、それは使いますよ、という回答を国がしています。ただし、警察が収集したマイナンバー付きの情報をもとにデータベース化するのは、今は違法であるという回答も、国はしています。今は、です。
 警察が扱う場合、先ほど言った情報提供ネットワークだったらいちおう検証はされる。どういうふうに使ったかが検証されるわけですが、警察がやり取りしている情報について検証する仕組みはないので、どう使われていたのかはたとえデータベース化されていてもなかなか私たちにはわからない。
 そういうことからすると、先ほど遠藤さんが言われた、そういうマイナンバーの使い方の中で、警察は例えば犯歴、犯罪の情報だとかを紐づけて管理していきたいと考えていると思うんですよ。 利用範囲は広げられていく

警察が使えるようなものにされていく危険

 ですから、目的の中にそういうようなものが加わっていけば、つまり税だとか社会保障だとか災害対策 ―― 今はその3つの範囲でしか使わないと限定しています。ところがこの番号制度はもっと広げていかないと採算が合いませんよ、効率が悪いですよとずいぶん言われていますから、おそらく利用する範囲は広げられていくでしょう。そのときに、警察が使えるような、公安機関が使えるようなものにされていく危険性は非常に高いのではないか。
 その中で戸籍の情報とどう結びついていくのかというときには、先ほどの話のような危険性というのは、私は根拠のないことではないと思っています。
遠藤 ぜひ、その記事は読ませていただきます。繰り返しになりますが、マイナンバーと戸籍の関係で言うと、懸念は今のところ犯歴照会ですね。

警察は、なんでも手に入れようとしている

会場発言 今でも警察がしょっちゅう住民票、戸籍を調べに役所に来ます。ひとつの情報が手に入ると、そこから連動してなんでも手に入れようとするでしょうし、マイナンバーがわかればそこから連動させて調べたいのだろうと思います。金融機関もマイナンバーを出しなさいとしつこく言っていますが、そこからでも全部つなげたいのだろうと思います。

相続と家系――戸籍から見たマイナンバーの便利さ

相続関係がクリアになることがメリットではないか?

会場発言 戸籍とマイナンバーの連携のいちばんのメリットは、やはり相続関係がすごくクリアになってくるのですね。だからさっき、戸籍の保存期間が150年と聞いたときに、ああこれで、情報がばあーっと1本に連携されるのだなと思ったわけです。行政側はそれがいちばんのメリットとして考えているのじゃないのかな。だからすごくメリットのあることを今やってるんだよと、こんなに便利になりますよ――そういうふうに言われると思うんですよね。
遠藤 技術的なところは原田さんに。

「相続に関して、マイナンバーは使えない」

原田 先ほど向こう側の検討材料について話をしたように、相続というのは利用が多いので、本来そこをメリットとして言いたいのでしょうけれども、実際に今作っているものだと、先ほども指摘されていましたが、改製する前の戸籍だとかは画像なので連携できない。なので、政府側もはっきり「相続に関しては、マイナンバーは使えない」ので、従前どおりのやり方でたどって戸籍を集め、相続の手続きをするしかないと言っています。
 この連携システムが100年200年続いていけば、だんだん情報も蓄積されてきて、画像で記録されている昔の人が死に絶えてしまえば、そのときには相続にも使えるようになるかもしれませんね――みたいな書き方をしています。なので政府側は、「死亡時のワンストップ」ということを含めて、相続をメリットとして言いたかったのでしょうが、現実に今考えられているものは、ほとんどそこには使えないことを認めてしまっているということですね。
 すごくたくさん矛盾がある。というか、政府側はいろいろ風呂敷を広げて、こんなことやるためにマイナンバーを戸籍に付番するよと言っていたたてまえが、実際には、現実のシステムを考えると使えなかったり非常に複雑なシステムを組まなければいけなくなったりしてきている。
 実際のところどうなの? って話は、それにかかるコストとか考えるとメリットはどうなのという話が出てくるのではないかなと思うわけです。

相続手続きのための「家系図」サービス

会場発言 自治体職員で戸籍はしょっちゅう見ているので、ちょっと補足します。  相続関係でいうと、マイナンバーは使えませんよという話がありましたが、今、相続のために、自分でさかのぼった戸籍を全部集めて、そのつど、金融機関や証券会社などに提出しなければならないのですが、これを法務省は、マイナンバーと合わせていったん家系図を作ってしまえば相続のたびにいちいち集めなくてもいいですよというサービスを始めるといっています9
 そういうところがマイナンバーの導入と裏表なんですが、こんなに便利になりますよということにしたいのだろうと思います。

家族意識を温存・維持するという大きな目的

 それから、戸籍とマイナンバーの関係――マイナンバーは個人での管理ということになるのでしょうが、戸籍とつなげることによって、家族意識を温存というか維持するということが大きな目的としてあるのだろうなと思うのですね。
 福祉関係もそうだろうし、社会的な負担を減らすために家族内での相互監視というか、そういう制度を維持しつつ個人を個人で管理を強化したいのだろうと思うのですね。

外国人も戸籍に入れた方が、政府にとっては便利なのでは?

会場発言 外国人は戸籍に載っていないわけですが、だけど今は、住民票には3か月以上定住する方は載っていてマイナンバーも振られているわけです。じゃあ、いっそのこと外国人も戸籍に入れちゃった方が、管理する側からすると、まさに婚姻だとかそういう身分関係ががっちりわかるのは、やっぱり戸籍ですよね、住民票じゃなくて。だから、入れちゃった方が当局にとっては便利なんじゃないかと思うんですけど――私がそうしろと言ってるわけじゃないですよ。どうでしょうか?

そこはやっぱり血の論理だと思う

遠藤 ええ。そういう議論は歴史をたどると、ところどころで出てきます。例えば植民地の時代だと朝鮮人に徴兵をしようというときに、戸籍が朝鮮人と日本人――当時のことばでいえば内地人ですね、それが別々だと管理しにくいから一緒にしちゃった方がいいのじゃないかという議論が出るんですね。
 で、そのときの反対意見というのはやっぱり、戸籍を一緒にしてしまうと、まず日本人、朝鮮人の区別がつかなくなる、やっぱり別にしておきたい――そこはやっぱり血の論理だと思うのですね。言葉はよくないけど、籍を一緒にすることは籍が汚れるというような感覚すらあったのだろうと思います。
 今も外国人と日本人は戸籍がぜったい一緒にならないのは、やっぱり血の論理があると思うんですね。「臣民」の登録簿ですから
 管理しやすいという点で言ったら、絶対に国際結婚のカップルとかも戸籍にいっしょに載せた方が管理しやすいと思うんですね。いちいち外国人住民票と戸籍を突き合わせて管理するよりもやりやすい。だからやっぱり、外国人を戸籍に載せるということは、また戸籍の崩壊になるし、あくまで戸籍は日本の「臣民」の登録簿ですから、外国人は日本臣民の中に入れないわけですね。天皇の臣民になるのは、やっぱり戸籍に載っている日本国籍を持つ者だけという、そういう歴史的な思想が今も変わっていないのだと思います。  
 
Note

*7 宮崎俊郎「【マイナンバー】銀行など民間で強まる提供圧力 狙いは市民監視の精緻化」。「週刊金曜日」2017.1.6号所収

*8 特定個人情報の提供の制限を規定した番号法19条には、この制限からの除外事項も規定されており、この19条14項として「…訴訟手続その他の裁判所における手続、裁判の執行、刑事事件の捜査、租税に関する法律の規定に基づく犯則事件の調査…」などとある。しかし、同条7項の別表2(7項で「情報提供ネットワーク」の利用が可能とされる行政事務の範囲の一覧)には警察関係の利用は含まれていない。このため、14項の上記規定部分については「情報提供ネットワーク」とは異なる方法でマイナンバーが利用されることになる。
番号法の全文は » こちら を参照。
また、市町村による「犯歴情報」の保有については、» 遠藤講演の注13(pdfファイルではp.24)を参照。

*9 このような、マイナンバーとの連携後の「家系図サービス」でも、非電算化戸籍(画像イメージ)がかかわる相続関係の場合は、「紙(画像)の戸籍」が必要になる。おそらくこの「サービス」は、現在すでに法務省民事局が登記所の窓口で提供している「法定相続情報証明制度」に、マイナンバー導入時に編成する予定の「親族的身分関係情報」(非電算化戸籍などの情報は含まれない)をその範囲内で活用したうえで、「紙の戸籍」の情報を手作業で追記して複数回利用することを目指すものだろう。» 法務省民事局「法定相続情報証明制度について」参照

◯構成・脚注:いらないネットWebエンジン(NT)/校正協力:TK

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