マイナンバーはいらない

post by nonumber-tom at 2018.4.9 #215
個人情報保護委員会の正当性 不安感と危険性 学習会報告

個人情報保護委員会でマイナンバー制度の危険性は防げるか
3月7日学習会報告

 共通番号いらないネットでは、毎月、当面する課題の理解を深めるために検討会を行っています。3月は、個人情報保護委員会に質問書を提出していることもあり、「マイナンバー制度の<危険性>は、個人情報保護措置で防げるか-個人情報保護委員会の役割を中心に-」をテーマに行いました。
 マイナンバー制度にはさまざまな問題が起きていますが、マイナンバーの利用を監視監督する機関として個人情報保護委員会がどんな役に立っているのかよくわかりません。最近の動きからは、はたして個人情報を「保護」する機関なのか疑問も感じます。マイナンバーの危険性や委員会の成り立ちから検討しました。  

*この学習会の配布資料(レジュメ)は »こちら からダウンロードできます。

 
 

マイナンバー制度への「不安感」を払拭しようと政府がキャンペーン

 マイナンバー制度は、政府が思うようには普及していません。マイナンバーカードは交付2年たっても交付数1320万枚、交付率10.4%で、政府が予算化した3000万枚の1/3です。マイナンバーカードを使ったコンビニ交付を行う市町村は1/4にとどまり、マイナポータルの電子申請の利用やポイントサービスを利用する自治体も一部です。
 
 そのため政府は住民の異動期である3~4月に普及させようと躍起で、自治体にマイナンバーへの不安感の払拭と普及の協力依頼を続けています。今年1月には総務大臣が自治体に異例の「お手紙」を送り、2月には全国10地域で啓発イベントを行ったり、内閣府のサイトに「地方公共団体の方へ」を掲載したりしています。総務省はマイナンバーカード取得促進キャンペーンを続け、2月3月と取得促進の先進事例を公表しています。  
 

問題は「不安感」ではなく現実の「危険性」

 「マイナンバー制度は安全なのに国民が不安感を抱いている」と言いたげなキャンペーンですが、しかし政府みずからマイナンバー制度の危険性は認めています。  
 2月1日に内閣府サイトに掲載された「マイナンバー制度における安全対策について」1には「マイナンバー制度に対する国民の懸念」の図が載っています。この「懸念」について裁判2の中で国は主観的な不安感ではなく、何らの個人情報保護措置も講じなかった場合には個人情報の漏洩、特定個人の選別差別、成り済まし被害、国家による監視などの「客観的な危険性が生じ得る」ことを認めています。ただ個人情報保護委員会の設置など個人情報保護措置を講じているので、具体的な危険性ではないと主張しています。  
 マイナンバー制度の基になった「社会保障・税番号大綱」では、意図しない個人情報の名寄せ・統合によって自由な自己決定が困難になる「萎縮効果」を生み、民主主義の危機をも招くおそれがあるとその危険性を指摘しています。  個人情報保護措置が機能しなければ、これらの危険は現実になります。  

個人情報保護委員会の設置は、合憲であることの条件

 2002年に始まった住基ネットには全国で反対運動が広がり、違憲差止訴訟も相次ぎました。2008年3月6日に最高裁は住基ネット合憲を判決しましたが、無条件で合憲としたわけではありません。合憲とする条件の一つが、第三者機関等の設置により個人情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることです。  
 氏名住所等しか扱わなかった住基ネットと違い、マイナンバー制度は税、社会保障などプライバシー性の高い情報を扱い、住基ネットでは行わないとした「データマッチング(名寄せ照合)」を目的とし、民間での利用も想定するなど、格段に危険性は高まっています。  
 そこでマイナンバー制度の開始にあたり、独立性のある監視機関の設置が求められました。2013年5月に成立した番号法により、2014(平成26)年1月1日に特定個人情報(マイナンバーの付いた個人情報)の利用を監督指導するための特定個人情報保護委員会が設置されました。  
 2015年9月には、番号利用拡大法とセットで改正された個人情報保護法により、個人情報全般の利用も監督する委員会に改組が決まり、2016年1月1日に個人情報保護委員会が設置されました。  

国家・行政への監視のために第三者機関が重要

 番号制度開始に向けて第三者機関のあり方を検討した個人情報保護ワーキンググループでは、「第三者機関」にする理由としてとくに国家・行政にたいする監視の必要性を指摘しています3。  
 番号制度を創設すると個人の情報が国家の下に一元的に管理され、国家によって個人の信条、思想、趣味などまでが把握されたり、特定の個人が監視・監督されたりするのではないかという懸念が生じる。  また、国家(特に行政)において、保有する個人情報を目的外で流用したり、漏洩させたりするおそれが強まる。  これを防止するために、ある行政機関に他の行政機関に対する監視業務を行わせても、お手盛りになったり、他の行政機関から圧力がかけられたりする可能性がある。  一般の行政機関からは独立して活動できる第三者的立場の監視機関が必要となる。  
 また合議制の「委員会」にする理由として、次の説明をしています。  
 準司法機関のように、権限の行使に当たって、有識者等による慎重な審議が必要とされる場合には、複数の人の合議により行政機関としての意思決定がなされる委員会形式をとることとなる。  第三者機関は、番号制度運用時の個人情報保護に関し、指導・助言・勧告・命令などを行う強い権限を担うが、この権限を行使するに当たっては、専門性の高い議論と慎重な判断が求められるため、委員会形式であることが必要となる。  
 これら第三者機関としての個人情報保護委員会の設置の趣旨が、いま問われています。  

個人情報保護委員会に対する質問書

 個人情報保護委員会がどのような国家・行政に対する監視監督を行っているのか、疑問に感じる事態が続いています。共通番号いらないネットでは、3点の質問をしています4。  
 第1は、昨年多くの誤送付による漏えいが発生した住民税の特別徴収税額通知書の問題に、個人情報保護委員会がどのような対応をしたかです。自治体からの報告を受けている委員会が把握している漏えいの実態や、自治体や総務省などにどのような監督指導をしたのかなどを明らかにするよう求めています。  
 第2は、収集したマイナンバーの「流用」の問題です。個人情報保護委員会は、住民税特別徴収税額通知書で市区町村から民間事業者に通知されたマイナンバーを、健康保険など他の目的に流用することを、本人にわかるよう示していれば認めるQ&Aを追加しました。総務省は当初流用を認めない通知をしていましたが、Q&Aに合わせるかのように通知を変更しています。行政の都合で個人情報のルーズな扱いを認めているのではないか、質しています。  
 第3は、昨年11月に始まった情報提供ネットワークシステムによる情報連携についてです。調査した会計検査院は、義務づけられている「特定個人情報保護評価」が個人情報保護委員会の定めたルールにしたがって行われていない実態や、情報連携のタイムラグにより古く誤った情報が提供される問題などを指摘しています。個人情報の保護機関としてこれらの実態をどうとらえているかを聞きました。
 1月30日に質問を送付し、2月13日までに回答を求めました。回答も連絡もなかったため、取り扱いを電話していますが、検討中として学習会当日までに回答はありませんでした5。  

会場から出された意見など

・本来個人情報保護委員会が指摘すべきことを、会計検査院の指摘で私たちが知る現状。委員会はどんな役に立っているのか。

・個人情報保護委員会への監視の目がない。どうせマイナンバーの安全を装うためのカモフラージュだと見放していたら、どんどん委員会は悪くなる。

・2015年の個人情報保護法改正で個人情報の利活用の促進が強調された。アクセル(利活用)とブレーキ(保護)を同じ機関がやっているため保護がルーズになる。

・説明した番号の提供目的とちがう目的で使うことは大きな問題だが、個人情報保護委員会の判断でそれを認めてしまっていいのか。

・メディアや国会が取り上げないので、起きていることがわからないまま進んでいる。  

 
Note
◯3月4日学習会配布資料 »学習会レジュメ
*1 内閣府 »「マイナンバー制度における安全対策について」
*2 マイナンバー違憲訴訟・東京の、»被告国「求釈明に対する回答書」(2016.10.4)
*3 内閣官房 個人情報保護WG(第2回)(資料2)»「番号制度創設に伴う個人情報保護に関する第三者機関・三条委員会の必要性」
*4 »いらないネットの「質問書」
   »同質問書の「趣旨説明」
*5 個人情報保護委員会は、その後「回答しない」と連絡してきました。詳細は »「個人情報保護委員会 回答を拒否」 で報告していますので、参照してください。
*共通番号いらないネット学習会
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