post by nishimura at 2018.3.20 #214
戸籍 マイナンバー 連携 個人単位の国民管理 家単位の国民管理
学習会「戸籍へのマイナンバー導入は何をもたらすか」記録
その2 講演 : 遠藤正敬さん
「家単位」の国民管理 vs 「個人単位」の国民管理
問題だらけの「戸籍」制度と問題だらけの「マイナンバー」。この2つを連携したとき、いったい何が起きるのでしょうか? 戸籍を専門とする政治学研究者遠藤正敬さんは、この連携を「日本人が初めて経験する『個人単位の国民管理』」だと指摘しています。2017年10月26日の学習会の全記録から、遠藤さんの講演を収録。
IV 取り残される無戸籍者――マイナンバー導入の谷間
» I 戸籍は個人よりも国家のための制度
» II 戸籍形成の歴史――家・戸籍・国体
» III 「日本人の証明」としての戸籍
» IV 取り残される無戸籍者――マイナンバー導入の谷間
» V 戸籍なくしては生きられない?――現実における戸籍の必要性
» VI マイナンバーと戸籍の連携の意味は何だろう?
» VII 懸念される、マイナンバーの利用範囲拡大
マイナンバーと戸籍との連携においてほとんど議論されていなかったようなんですが、戸籍がない人たちをどうするのか ―― 無戸籍の日本人をどうするのかということですね。
無戸籍と無国籍の違いについては、けっこう両者を混同する人が多いのですが、戸籍はあくまで日本国籍の証明でありまして、「戸籍がない=日本国籍がない」ということにはならないのですね。
無戸籍者というのは、日本人と推定される者――まあ、母親が日本人であればもう完全にそういう推定が成り立ちますが、日本人と推定される者で戸籍に記載されていない者を指します。
無戸籍者が生まれる原因
無戸籍者が生まれる原因はいろいろあるのですが、だいたいこの4つに分けられます。
1)記載されるべき戸籍に記載されていない(「300日規定」問題)8
2)もともと記載されるべき戸籍がない
3)初めは戸籍に記載されていたが、戸籍から抹消された
4)記載されていた戸籍が焼失または紛失などの形で消失した
戸籍に記載されていない――「300日規定」問題
最も多いのは 1)の原因であろうと考えられています。つまり出生届を出さなかったということですね。
これは、現在ではもうほとんど、民法772条の「300日規定」が原因になっています。夫婦の離婚成立後300日以内に生まれた子は前の夫の子と推定されるという、嫡出推定の規定です。このため、前の夫に暴力を受けたりとかで前の夫の子として戸籍に載せることに非常に抵抗を感じると、だったら出生届を出すのはやめようと思い立つわけですね。
それから、事実婚のカップルが子どもを産んだ場合、出生届に嫡出でない子、非嫡出子と記載することも、抵抗をまねく原因ですね。
子どもが入る戸籍がない
そして 2)の場合。これは親が無戸籍で生まれた場合、当然、子どもが入る戸籍がないので無戸籍になる。
私の本(『戸籍と無戸籍』)でも触れたのですが、戦前は親が戸籍の存在すら知らないという例がけっこうあった。スラムに住んでいる人たちなんかは、役所の方面委員、今でいう民生委員が調査に行くと、一家全員無戸籍とかいうケースもあって、父親に聞いたら「戸籍ってなんだ?」ということもあったのですね。
失踪宣言、まちがった死亡報告
さらに 3)は、民法に基づく失踪宣告ですね。7年間生死不明だと、失踪宣告を申し立てれば、家庭裁判所の許可を得て戸籍が抹消されるというやつですね。本人が生きているにもかかわらず失踪宣告を先に出されてしまっていた。あと、誤った死亡報告ですね。戦災で生死不明になった人なんかが多いのですが、本人が生きて帰ってきたのに戸籍がないというケースもよくあります。
戸籍の消失 ―― 戦災や自然災害、行政の過失など
最後の 4)では、戸籍はどうしても戦災や震災などで消失してしまうということです。関東大震災や東京大空襲、それから沖縄戦です。特に沖縄ではほとんどの県内の戸籍が全滅したので、戦後の沖縄の戸籍の再製はかなり大変だったようですね。
戦災や震災ではなくて、行政の過失として役所でうっかり紛失してしまうということもあるようです。誤ってシュレッダーにかけちゃったとか、ファイルしようとしてどこかに行っちゃったとか、役場の担当者の証言がある。
それから、戦時中に粗末な紙を使ったために、戦後になって戸籍簿が劣化して字が消えてしまったり、破けてしまったりすることもある。これは再製すればいいわけですが。
戸籍のほころび ―― 幽霊戸籍
戸籍を失って精神的、社会的に苦痛を感じる人がいる一方で、「幽霊戸籍」の問題というのもあります。これは、戸籍による国民管理のほころびを現しているものですね。
江戸時代の天保何年生まれ、嘉永何年生まれとか、客観的に見て死亡している可能性が高い高齢者が、戸籍上生存していることがあります。例えば戦災で家族すべてが死亡して、死亡届が出ていなかった場合とか、あるいは年金を受給し続けるために、意図的に家族が死亡届を出さなかったとか、そういうケースもあるようです。
最近では2010年の8月に、長崎で200歳という日本では史上最高齢にあたる人が、戸籍上生きていたという事件もありました。
こういう話は明治大正のころからひっきりなしにあったのですが、法務省民事局では2010年9月6日に通知を出しまして、戸籍の附票に住所の記載のない120歳以上の高齢者について、戸籍上死亡と扱って職権により消除してよいという、「高齢者消除」という規定が作られました。
こういうことをやらないと、150歳でマイナンバーを持ってる人が出てくるかもしれないですね。
国民管理装置としての矛盾がよく現れていますね。生きている者が記載されないで、とっくに死んだ人が記載されているという不条理が、戸籍には常にあるわけです。
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個人情報保護委員会ヒアリング報告
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