マイナンバーはいらない

post by nonumber-tom at 2019.9.30 #264
マイナンバー訴訟 神奈川 第一審 判決 横浜地裁

マイナンバー(共通番号)違憲訴訟@神奈川
横浜地裁が不当判決、しかし原告の指摘した問題点は認める

 9月26日、横浜地裁はマイナンバー利用差止訴訟で、原告の請求を棄却する判決を下しました。不当な判決ですが、原告のマイナンバー制度の危険性等の具体的な立証・陳述を受けて漏えい等の事例は認定し、「安全措置によっても、個人番号及び特定個人情報の漏えいを完全に防ぐことが困難であることは否定できない。」と認め、制度の運用に伴う弊害防止に向けた検討・改善の必要に言及しました。
 
   
 全国8カ所で争われているマイナンバー違憲差止訴訟で、初の司法判断が9月26日横浜地裁で示されました。当日は約120名が傍聴にあつまり判決を待ちましたが、裁判長は主文「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」を読み上げただけで、要旨の説明をすることなく終了しました(判決全文1 および判決要旨2参照)。
 神奈川訴訟は、全国8カ所のマイナンバー訴訟で最大の230名の原告団により争われ、毎回、様々な立場の原告がマイナンバー制度の問題点について意見陳述をしてきました3。原告団・弁護団は9月26日、判決についての声明を出しました4
 横浜地裁判決では、原告の訴えは認められませんでしたが、原告が指摘した数々のマイナンバー制度の問題を認めており、この判決を受けて政府が「マイナンバー制度=合憲」の判断が示されたとして普及・利用拡大を進めることは許されません。

争点の自己情報コントロール権は認めず

 原告は、憲法13条で保障されたプライバシー権である自己情報コントロール権(自分の個人情報の収集・保存・利用・提供を自分でコントロールする権利)をマイナンバー制度は侵害しているとして利用等の差止を求めましたが、国は、自己情報コントロール権は差止請求の根拠となる実体法上の権利ではないと主張していました。
 今回の判決では、住基ネットを合憲とした2008年3月6日最高裁判決に沿って、憲法13条は「みだりに第三者に開示または公表されない自由」を保障しているとして、自己情報コントロール権には言及しませんでした。ただし、原告の主張を受けて「収集、保有、管理、利用等の過程でみだりに第三者に開示又は公表されない自由をもその内容に含む」(今回判決p.52。以下「判決」と略します)と、最高裁判決より若干広げています。

「「情報ネットワークに接続されない自由」を一律に保障していると解することは困難」

 さらに原告は自己情報コントロール権の重要な内容として、「情報ネットワークシステムに接続されない自由」(情報ネットワークシステムに接続する前に接続を許容するか否かを個人が判断する)も包含すると主張してきました。
 これについて判決では、自己の意思に基づかずに情報ネットワークシステムに接続されない自由をあらゆる場合を通じて一律に保障していると解することは困難で、秘匿が求められる程度などを考慮することが必要と述べました。

横浜地裁判決が述べていること

 判決文では、憲法13条に違反するか否かを検討するに当たっては,法制度及びシステム技術上の配慮とともに、問題となる制度の行政目的や個人の情報の性質に照らして検討することが必要とした上で、情報ネットワークへの接続対象となる個人情報の内容、性質、とくに個人のプライバシーとして秘匿が求められる程度は様々であるとして、「憲法13条が、そうした点を考慮することなく、個人に関する情報について、自己の意思に基づかずに情報ネットワークシステムに接続されない自由を、あらゆる場合を通じて一律に保障していると解することは困難であって、番号制度における情報ネットワークシステムにおいて、個人に関する情報の接続が、当該個人の意思に反し可能とされていることから直ちに、番号利用法ないし番号制度が憲法13条に反するものと解することはできない」(判決p.53)としています。

本人同意を認めない情報提供ネットワークシステムは見直しが必要

 マイナンバー制度の情報提供ネットワークシステムでは、番号利用法別表第二で情報提供事務とされた個人情報については提供義務があり、本人や自治体が提供の可否を判断する余地はありません。
 しかし現実の運用では、地方税関係情報は提供に本人同意が必要な場合があり5、申請者がマイナンバーの提供を明示的に拒否する場合は情報連携を行わないことが適切とされ6、DV・虐待等被害者については自動的な情報提供はせずに職員が判断する扱い7になっています。

 ▲クリックで拡大縮小
 情報提供事務に含まれる障害、健診結果、難病などの情報は、2015年に改正された個人情報保護法では「要配慮個人情報」になり、取得には本人同意が必要になりました8(右のスライドをクリック)。さらに今後は社会的身分にかかわる戸籍情報や、病歴などの「要配慮個人情報」の提供も予定されています。
 提供に本人同意の規定のない番号利用法は矛盾を深めています。憲法判断は別として判決の趣旨を踏まえれば、秘匿が求められる個人情報は情報ネットワークに接続しない自由を認めるべきであり、「要配慮個人情報」の提供拡大は中止すべきです。

安全措置によっても漏えいを完全に防ぐことは困難と認める

制度の運用に伴う弊害防止に向けた不断の検討と改善を求める

 国は、個人番号及び特定個人情報の漏えいを防止するために必要な安全管理措置が講じられており、発生している漏えい等は人為的ミスで制度の問題ではないと主張していました。
 しかし判決では、原告・弁護団が力をいれて立証した漏えい等の事実を認定して「番号制度の運用開始以後、行政機関等における過誤や不正、民間事業者の違法な再委託及び欺罔等による不正な取得により、個人番号及び特定個人情報の漏えいが生じていることに鑑みると、上記安全措置によっても、個人番号及び特定個人情報の漏えいを完全に防ぐことが困難であることは否定できない。」(判決p.66)と、「マイナンバー制度=安全」神話を否定しました。
 そして国に対して「漏えい事例が存在することから、番号制度に対する国民の信頼を維持し、同制度の円滑な運用を可能にするために、今後も、制度の運用並びに制度及びシステム技術の内容について、同種の漏えい事例を含む、制度の運用に伴う弊害防止に向けた不断の検討を継続し、必要に応じて改善を重ねていくことが望まれる」(判決p.67)と、制度改善を求めています。
 政府は6月4日の「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用拡大の方針」9の5(1)で、「マイナンバーの秘匿に対する誤解の解消」を図るため関係ガイドライン等の見直しに言及し、安全管理措置の緩和を示唆しています。判決をふまえれば、国民の信頼のためには安全管理措置のさらなる強化が必要であり、ガイドラインの緩和など許されません。

名寄せの危険性を軽視する重大な誤り

 ただ判決は、「個人番号及び特定個人情報の漏えいに起因して、本人の情報が複数名寄せされる被害が生じたことを認めるに足りる証拠もない」と現状で被害が確認されていないなどとして、名寄せは困難で「流出した個人番号を共通の鍵として本人の他の個人情報を名寄せ,突合される危険性があるということはできない」(判決p.67)と判断し、訴えは認めませんでした。
 マイナンバーによる名寄せの危険は政府も認めています。内閣府作成の番号法「逐条解説」10 p.53でも、「個人番号が付されることで、特定の個人の情報であることが極めて容易に識別できるようになるため、本来組み合わせて使用することが予定されていない情報同士を、個人番号で名寄せして結びつけることが可能になる。」と、不正な名寄せの危険性を指摘しています。
 名寄せの危険性は漏えいが拡大するほど増大します。導入から間もない時期に被害が確認されないからと、危険性を軽視した判決は重大な判断の誤りです。

番号法の目的が実現していないことは認めつつ、制度の導入時だからと判断

現状では行政効率化・国民負担軽減はしていない

 原告がマイナンバー制度により行政運営は効率化しておらず、逆に負担が増えていると主張したことも、事実としては認めつつ、「将来継続的に効果を生ずる制度を導入する際、一般に、導入時に一時的に多大な負担が生じることは、その性質上やむを得ないところであって、番号制度について、将来継続的に生ずることが想定される効果を度外視し、導入時の負担のみに着目して、目的の正当性を否定することは相当でない」(判決p.57)と、内容検証抜きの形式論で原告の主張を否定しました。
 しかし多大な負担は導入時だけではなく、安全管理のための負担やマイナンバー記入の際の本人確認の負担などは、制度が続く限り継続します。効率化についても、「情報連携・マイナンバーカード・マイナポータルの徹底活用」という実態からほど遠い仮定によってしか効果を説明できない現状の検証をしていません。

公正な給付と負担の確保も実現していない

 公正な給付と負担の確保について、原告側は国自ら番号制度によっても所得把握には限界があると述べていること、社会保障費抑制・削減の下で充実のための予算の見通しは厳しいことなどを指摘していました。
 判決は現状では公正な給付と負担の確保に役立っていないことは認めつつ、「制度の導入から間もない時期に,その制度を活用する具体的立法がなされていないことから直ちに立法事実を欠くものということはできない。」(判決p.58)と、将来は実現できると判断しました。
 しかし原告が最終準備書面11で指摘するように、制度設計をした民主党政権の弱者・低所得者対策の理念に基づく「給付のための番号制度」12という基本的性格が、自公政権では変容して番号制度だけが実現し、目的が将来具体化する立法も予定されていません。実態を踏まえない判断です。

個人情報保護措置が機能していない実態を見ない判決

 マイナンバー制度に対しては、漏えいや成り済ましの危険とともに、国家による個人情報の一元的管理の危険があることを、政府も認めてきました。その個人情報の保護措置としてある個人情報保護委員会や特定個人情報保護評価や罰則などの制度が機能していないことを、原告側は具体的に指摘してきました。
 しかし判決では、機能していない実態にふれることなく「法制度及びシステムの両面から,安全を担保するために多重的な措置が定められているところ,これらの措置が,そもそも制度上実効性を欠いていて不合理なものであるとまでは認め難い。」(判決p.66)と、法律をなぞるだけで原告の主張を退けました。 ただ漏えいが生じていることに鑑みると、これら安全措置によっても個人番号及び特定個人情報の漏えいを完全に防ぐことが困難であることは否定できないとして、制度の運用の弊害防止に向けた検討と改善は求めています。
 総じて判決は、原告団・弁護団声明が「問題は、どのような仕組みを用意したのかではなく、その仕組みが有効に機能し、マイナンバー制度のもとでプライバシー権の保護が図られているのかということにあるが、その点についての判断はなされていない。」と指摘するように、制度の実態についての事実認定そのものが誤っています。

 今後、7つの地裁で判決が予定され、神奈川訴訟は控訴することになっています。裁判所はマイナンバー制度の現実を踏まえた公正な判断をすべきです。

Note

*1 横浜地裁 » 神奈川第一審 判決全文(2019.9.26)

*2 横浜地裁 » 神奈川第一審 判決要旨(2019.9.26)

*3 ブロブ » 「マイナンバー(共通番号)違憲訴訟@神奈川」の記事参照

*4 神奈川訴訟原告団・弁護団 »「マイナンバー違憲訴訟横浜地裁判決についての声明」(2019.9.26)

*5 内閣府・総務省 » ○行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第十九条第七号の規定により地方税関係情報を照会する場合に本人の同意が必要となる事務を定める告示(平成二十九年五月二十九日内閣府・総務省告示第一号)最終改正平成二十九年七月十四日内閣府・総務省告示第四号

*6 内閣官房番号制度推進室 »「情報連携の本格運用開始に関するQ&A」(2017.11.8)

*7 内閣官房番号制度推進室 » 「DV・虐待等被害者に係る不開示コード等の設定に関する基本的な対応等について」(2017.7.13)

*8 個人情報保護委員会事務局 » 「改正個人情報保護法について」(平成28年11月28日) p.15 「個人情報保護法の改正と政令等のポイント(2)」

*9 デジタル・ガバメント閣僚会議 » 「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」 (2019.6.4)

*10 内閣府大臣官房番号制度担当室 » 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律【逐条解説】」

*11 神奈川訴訟原告 »「最終準備書面」(2019.6.20)

*12 政府・与党社会保障改革検討本部 » 「社会保障・税番号大綱」(2011.6.30)

twitter@iranai_mynumber facebook@bango-iranai
次の記事 « » 前の記事