post by 40kara/WebEngine(Nt) at 2019.2.29 #247
戸籍 マイナンバー 戸籍情報連携システム 戸籍ネットワーク 副本システム 韓国家族関係登録制度
「戸籍とマイナンバー」学習会 シリーズ②
戸籍情報の連携とマイナンバー制度導入の危険性
2019年通常国会に戸籍法の改定法案が提出されることになったようです1。この法改定案は、戸籍に「マイナンバー」を導入することを含んでいます。法改定に向けた政府・法務省の考え方と今まで進められてきた戸籍のシステム化・ネットワーク化の動き、そして戸籍とプライバシーの関係や韓国の家族関係登録法/個人登録法について、共通番号いらないネットスタッフの井上和彦さんのお話(戸籍とマイナンバー学習会② 2018.7.12)をまとめました。
「I 戸籍へのマイナンバー導入の経過」では、これまでの流れをおさらいします。
I 戸籍へのマイナンバー導入の経過
司会(宮崎俊郎) 私たちは2017年10月、戸籍研究者の遠藤正敬さん(早稲田大学台湾研究所)と、原田富弘さん(共通番号いらないネットスタッフ)を講師として、戸籍とマイナンバーの学習会をやりました。遠藤さんには戸籍制度に光を当てるお話、原田さんからは法務省の法制審議会戸籍法部会の議論の内容についての報告をしていただきました2。
今日の学習会は、マイナンバー制度が導入されることによって、戸籍制度がどういうように変わっていくのかという辺りを含めて、私たちがいかに立ち向かっていけばいいのかということを考える際の、最も基本的な議論をしたいということで、井上和彦さん(共通番号いらないネットスタッフ)が報告をします。
井上 ご紹介いただきました「共通番号いらないネット」の井上と申します。ずっと戸籍とか住民票の問題を追いかけてきていまして、住基ネット、そして今、マイナンバーということでやっています。
先ほどお話がありましたけれども、2017年10月に、原田富弘さんと遠藤正敬さんが講師で、戸籍とマイナンバーの学習会をやりました。法務省の研究会などが開かれて最終の取りまとめのようなものが出たのがちょうどこの時期でした。それを踏まえた話を原田さんのほうでしていただきました。研究会を引き継いだ法制審議会の議論の論点は、この10月の学習会の主として原田さんのお話でほとんど話されていますので、私からは、その後の経過も含めて調べたり考えたりしてきたことを、ちょっと古い情報も含めて報告したいと思います。
お手元に配布資料があります3。そのNo.1がレジュメ4ですので、これにそってお話をしていきたいと思います。
最初にこれまでの流れをおさらいします。
1 政府(首相官邸・内閣)レベルの準備
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番号法が成立したときの附則第6条で利用拡大がすでに予定されていて「施行後3年を目途として、個人番号の利用及び情報提供のネットワークシステムを使用した特定個人情報の提供の範囲を拡大すること」等を検討することが織り込み済みになっていました5。
こうしたことを受けて、2014年の5月にIT総合戦略本部マイナンバー等分科会で「中間とりまとめ」を出し6、戸籍事務等について、マイナンバーの利用範囲に追加することが報告をされ、その年の11月に検討状況の報告がされ、戸籍事務についてマイナンバーの利活用や戸籍事務を処理するためのシステムの在り方等について検討するため、法務省に研究会を立ち上げて法制審議会への諮問をめざすということが決定しています。
2 法務省の動き
━━戸籍事務へのマイナンバー制度導入
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これを受けて、法務省の戸籍事務へのマイナンバー制度導⼊の検討が始まっていくわけです。ひとつが「戸籍制度に関する研究会」で、もうひとつ、それと時期的にほとんどがぶるような形で「戸籍システム検討ワーキンググループ」が立ち上げられて、2017年の8月、7月にそれぞれ最終の取りまとめが出ました7 8。それを受けて、今度は法制審議会の「戸籍法部会」のほうにバトンタッチをして、同じく10月から、2019年の通常国会、早ければ2018年の秋の臨時国会に戸籍法の改正案を提案するための議論が進められています9。
法制審議会戸籍法部会中間試案
その法務省法制審議会戸籍法部会の中で、2018年4月に「戸籍法の改正に関する中間試案」10が取りまとめられて、5月から6月までパブリックコメントの募集が行われました。一番厚い資料「戸籍法部会資料 7 『戸籍法の改正に関する中間試案』に対して寄せられた意見の概要」(学習会②配布資料(その2)に収録)11が、その中間試案とそれに対して寄せられた意見をまとめたもので、たぶん2018年7月11日、法務省のホームページにアップされたと思います。
この中間試案のp.1「(試案前注)」に、戸籍事務へのマイナンバー制度導入について概略が書かれていて、これを私のほうで表にまとめたのが、「戸籍事務へのマイナンバー制度導入」(学習会②配布資料 p.1)です(右の表をクリックすると、見やすい大きさで拡大表示します)。
マイナンバーの導入
━━戸籍事務内連携とネットワーク連携
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最初に、戸籍事務へのマイナンバー制度導入とはどういうことを言っているのかというと、以下の2つの情報連携を可能にするための仕組みを導入することの総称が戸籍事務へのマイナンバー制度導入なのだということです。
2つの情報連携とは、「戸籍事務内連携」と「ネットワーク連携」と呼ばれていて、それぞれ、「戸籍情報連携システム」、マイナンバーのほうの「情報提供ネットワークシステム」を使って情報連携を行うということで、この2つを総称して戸籍事務へのマイナンバー制度導入と言っています。
「連携情報」:戸籍記載事項と親族関係の情報
この中で「連携情報」という言葉が出てくるのですけれど、「連携情報」とは何かというと、「戸籍内の各人について戸籍により得られる情報によって作成される個人単位の情報」とこの中では呼んでいます。そこには、個人の戸籍の記載事項のほか、親族関係、つまり夫婦関係とか親子関係を明らかにする情報も載ることになっています。
親族関係情報を表す「親族関係符号」
個人単位で作られる情報で親族関係をどういうふうに表すのかというと、「親族関係符号」というのを付けるとあります。親子関係・夫婦関係を示す記号であって、当該親子間・当該夫婦間でそれぞれ同一の記号を付けるのだと説明がされています。
戸籍事務内連携は独自の番号を使い
ネットワーク連携は機関別の符号を使う
そして、連携情報に用いる番号というのが下のほうに書いてありますけれど、戸籍事務内連携で使う番号というのは戸籍事務内の番号を使って情報連携をするということで、こっちについてはマイナンバーは使わない。ネットワーク連携のほうは機関別の符号を使って連携をするということです。
戸籍事務内連携ではすべての情報をやり取りする
その情報連携の中でやりとりされる情報は何かというと、戸籍事務内の連携については、その連携情報すべてをやりとりする。一方、ネットワーク連携、マイナンバー制度のほうでやりとりされるのは、連携情報のうち、個人を特定する基本4情報――氏名、生年月日、性別、住所を含まない情報をやりとりするのだと言われています。
戸籍法部会では、マイナンバー制度を導入する話をあまり議論していない
今回出された中間試案やそれまでの研究会のやりとりを読んでいくと、ほとんど戸籍事務内連携――戸籍事務をネットワーク化して市区町村間でやりとりする連携の話ばかりで、マイナンバーを使ったりマイナンバー制度を導入するという話があまり出てこないんです。
「番号制度を導入しなくても、戸籍事務の利便性の向上は図れる」
レジュメの2014年10月29日のところですが、「戸籍制度に関する研究会」第1回が開かれたときの議事要旨に、委員の名前は出てないので誰が発言したかわからないんですけれど、こういった発言が載っていました。
「番号制度を導入しなくても、戸籍副本データ管理システムに全国の市区町村のシステムをつなげること等により、戸籍事務の利便性の向上は図れるのではないか。解決すべき課題が先にあって、そのために番号制度を利用するのなら良いが、番号制度を導入すれば、これもできますよといった議論は本末転倒だと思う。戸籍のオンラインが普及していないとの説明があったが、これは平成 16 年に住基ネットが導入された際、ニーズがないにもかかわらず、あらゆる行政手続のオンライン化を進めたためであり、ニーズがなければ結局普及することはない」
我々が言ってもおかしくないようなことをこの研究会のメンバーの方が発言していて、あまりマイナンバーに乗り気じゃないなというのが読み取れます。
法務省はマイナンバー導入に消極的だった
それから、弁護士の清水勉さんが『住民と自治』という自治体向けの情報誌に、「戸籍事務にマイナンバー制度を導入することの問題点」という論文
12 を寄稿していて、その中でも、
「マイナンバー法案が議論されていた当時、法務省が戸籍事務にマイナンバー制度を導入したがっているという話を聞いたことがない」
「政府にせっつかれた法務省は、2014年10月、有識者15名で構成される戸籍制度に関する研究会を発足させた」
「法務省が戸籍制度へのマイナンバー制度の導入についてどのような意気込みで臨んでいるかは、第1回研究会のときに委員に配布された、『戸籍制度に関する検討課題』と題する資料を読むとわかる。戸籍制度を電算化して運用を効率化したいという考えは鮮明に出ているが、他方、マイナンバー制度の導入については積極的とは思えない」
と書いています。