マイナンバーはいらない

post by Yoshidanaika at 2018.7.16 #227
医療 マイナンバー 保険証資格オンライン確認 医療等ID

医療とマイナンバー学習会報告
医療等分野における番号制度を考える
ーー保険証資格オンライン確認を通して

 医療情報を電子化し一元管理し利活用することは利点もあるかもしれないが、大きな危険も孕んでいる。その基盤となる、被保険者番号の個人単位化と保険証資格のオンライン確認、このまま進めてよいものだろうか? 国民全体で考える必要があるのではないだろうか? 2018年5月31日に行われた学習会「医療分野へのマイナンバー制度導入はどうなっているか?」の講師、東京保険医協会吉田章さんによる、当日の講演をもとにした報告です。
» 当日配布資料-1(スライドなど 20Mバイト)
» 当日配布資料-2(総務省の調査研究報告書 2Mバイト)
» この報告をPDFファイルでダウンロード
東京保険医協会 吉田章
 保険証資格のオンラインでの確認が2020年8月から開始される予定である。

I 背景 : ICT利活用の促進

#1 総務省による「ICTの活用促進」

 総務省HP1 には、以下のような記述がある。
我が国が抱える様々な課題(地域経済の活性化、社会保障費の増大、大規模災害対策等)に対応するため、社会の様々な分野(農林水産業、地方創生、観光、医療、教育、防災、サイバーセキュリティ等)におけるICTの効果的な利活用が不可欠です。

#2 社会保障費の増大に対してICTで医療費適正化(削減)ができないか?

▲クリックで別タブに拡大表示slide 1
 社会保障費は2016年で約120兆円、うち医療費40兆円でさらに増大する傾向であり、そのうち15兆円が税負担である。2012年総務省の推計では、電子カルテ、遠隔医療システム、健康管理サービス、とEHR(Electric Health Record健康電子記録、生涯健康記録)の普及により、大幅削減できるのではないかという目算が出されている 2

#3 アベノミクス

 また、安倍総理は 平成27年5月29日「産業競争力会議課題別会合」3 で以下のように述べている。
 今年の10月から始まるマイナンバーを活用して、社会生活の隅々まで変革をします。このマイナンバーの利用範囲を税、社会保障から、今後、戸籍、パスポート、証券分野までの拡大を目指して、一気に電子化を進めます。
 さらに、「日本再興戦略 改訂 2015」(平成27年6月30日閣議決定)4 p.37 「○医療等分野における番号制度の導入」に以下の記述がある。
・セキュリティの徹底的な確保を図りつつ、マイナンバー制度のインフラを活用し、医療等分野における番号制度を導入する。

II オンライン確認の具体的方法

 原則として、被保険者証を使わず、マイナンバーカードのみで窓口での資格確認を行うことになる。その前提として、現在は、後期高齢者を除き世帯単位で付番されている被保険者番号を個人単位化する。
 保険者は世帯単位の被保険者番号の末尾に二桁の番号を追加し、個人を識別できるようにする。そして他の資格情報(氏名、生年月日、保険者名、負担割合、資格取得・喪失日等と共に、マイナンバーと対にして社会保険診療報酬支払基金(支払基金)・国民健康保険中央会(国保中央会)が共同で運営するオンライン資格確認センターに登録する。管理は同センターが一元的に行うことになっている5
 なお、この個人単位化された被保険者番号は、マイナンバーカードが普及するまで暫定的にオンラインで資格確認するために使用されることも検討されている。

資格確認の流れ

 医療機関等の窓口では、患者さんからマイナンバーカードを受け取り、カードリーダーにかざす。ICチップに組み込まれた電子証明書を読み取り、マイナンバー情報をオンライン資格確認センターに送信する。資格確認センターはそのマイナンバーに対応した資格情報を医療機関に返信する6

▲クリックで別タブに拡大表示slide 2

 

III メリットとデメリット

(1)メリット : 【厚労省から】

  1. 資格喪失後受診に伴う事務コスト等の解消
  2. 高額療養費限度額適用認定証等の発行業務等の削減
  3. 特定健診結果や薬剤情報を照会出来る仕組みの整備
  4. 保健医療データの分析の向上

(2) デメリット : 【患者側から】

  1. 原則としてマイナンバーカードを窓口に出さねばならない。
    マイナンバーカードを持っていない場合、新たに発行してもらう必要がある。
    現在発行されている保険証は約8,700万枚、対して交付済みのマイナンバーカードは1,367万枚(2018.3月現在)。つまり、新たに7,400万人の国民が発行してもらわなかればならないことになる。マイナンバーカードを持ちたくないと思っていても被保険者証は必要であるため、持たざるを得ない。
    保険証を使うためにマイナンバー制の推進に組み込まれることになる。
  2. マイナンバーカードを受診のたびに持ち歩かなければならない。
    重要個人情報と直結するカードを落とす危険性が増大する。

(3) デメリット : 【医療機関、薬局から】

  1. すべての診療所等にオンライン設備が必要
    レセプト電子請求用の回線が想定されているが2017年3月で43.2%がオンライン請求していない。オンライン請求したくなくても保険証確認は必要であるため、オンライン化せざるをえなくなる。
  2. おなじくカードリーダーが必要
  3. レセコン(診療報酬計算請求用コンピュータ)の改修が必要
  4. 回線事故の場合確認不能
  5. 往診時の対応が未定
  6. 窓口で取り違えたときの混乱
  7. ウイルス侵入等のセキュリテイの問題
    セキュリテイ確保のため院内ネットワークを閉鎖的にしていても、オンラインで確認した保険資格を電子カルテに自動転記する仕組みを取り入れれば、外に対して常時開放されることになる。

(4) デメリット : 【その他】

  1. システム維持のコスト
    日本全国では救急を含めて24時間、医療が行われている。保険証確認も24時間必要である。それを可能にするためのコストは現在の粗い試算では、年間数十億円で、導入によるコスト削減と見合う程度となっているが、信用性には疑問がある7
  2. クラウド化によるセキュリテイ等のリスク
    厚生労働省保険局の「オンライン資格確認等について」p.4 (「中間サーバーのクラウドへの移行(検討中)」)8 には次のように書かれている。
    オンライン資格確認は、マイナンバーの中間サーバーの機能の一部を用いるが、運営コストの縮減や将来の拡張性を考慮すると、中間サーバーの機能をクラウドに移行する必要がある。
  3. しかし、クラウド化によるセキュリテイ等の危険が増大する可能性はないのだろうか?

IV 本質的問題、医療用(統一)IDとしての被保険者番号

 ここでもう一度政府の計画をみてみよう。

「医療等分野の情報連携の共通基盤」構築の問題

 「日本再興戦略 改訂 2015」には、「マイナンバー制度のインフラを活用した医療等分野における番号制度の導入」に関して以下のように記載がある9 。  
・マイナンバー制度のインフラを活用した医療等分野における番号制度の導入
 公的個人認証や個人番号カードなどマイナンバー制度のインフラを活用して、医療等分野における番号制度を導入することとし、これを基盤として、医療等分野の情報連携を強力に推進する。
 具体的にはまず、2017年7月以降早期に医療保険のオンライン資格確認システムを整備し、医療機関の窓口において個人番号カードを健康保険証として利用することを可能とし、医療等分野の情報連携の共通基盤を構築する。(下線は引用者による)  
 このオンライン資格確認システムは保険資格確認にとどまらず、「医療等分野の情報連携の共通基盤を構築する」目的を持っているのである。  

レセプトの「薬剤情報」がオンライン資格確認システムに集積、利用される

▲クリックで別タブに拡大表示slide 3
 まず、厚生労働省「オンライン資格確認等について」の「特定健診データの保険者間の連携、マイナポータル等の活用(イメージ)」(slide 3)10 によれば、各保険者から送られる特定健診データと医療機関から送られる毎月のレセプト情報(支払請求書)から抜き出された薬剤情報が、マイナンバーと対になった被保険者番号毎にオンライン資格確認システムに集積され、管理される。それらは保険医療機関や薬局で照会可能になるほか、医療費情報も加え、マイナポータルや民間PHR(Personal Health Record)サービスを通じ個人も照会できるようになるという。またこれらのデータは匿名化した上で国に登録、保健医療データの分析などに使用されることも計画されている。

「特定健診データ」は医療情報だが、被保険者番号を通じてマイナンバーで管理

 また、同じスライドによると、特定健診データとは身長・体重・血圧、血糖・血中脂質・肝機能・尿検査等の検査値、問診の結果、血圧・血糖・血中脂質の治療薬の服薬歴、喫煙・飲酒、食事・運動等の生活習慣とされている。これらはどうみても立派な医療情報である。
 これらに服薬情報、医療費情報を加えた医療情報が被保険者番号を通じてマイナンバーで管理されることになるのである。

「EHR : 生涯健康医療電子記録」の問題

▲クリックで別タブに拡大表示slide 4
 また、別の構想として、EHRがある11
 EHR (Electronic Health Record)は、生涯健康医療電子記録ともいわれ、政府は医療情報連携基盤と呼んでいる。
 基本的には、個人の生涯の医療情報等(遺伝子情報を含む)をすべて集約し、健康管理や医療、研究に役立てようというもので、「どこでもMYカルテ」や「どこでもMY病院」構想とも一部重なるものである。
 地域を越えた連続した医療や薬局や介護との情報連携にも利用のほか、ビックデータとして調査研究や教育、公衆衛生にも使用が想定されている。
 全国各地で規模や内容が違った形で試みが始まっているが、ゆくゆくは全国に広げようと政府は考えている。

「全国保険医療情報ネットワーク」とPHR(Personal Health Record)

▲クリックで別タブに拡大表示slide 5
▲クリックで別タブに拡大表示slide 6
 さらに、「全国保険医療情報ネットワーク」という構想もある(Slide 5 参照)12。このスライドでは「全国保険医療情報ネットワーク」ということばは使われていないが、患者基本情報や健診情報を医療機関の初診時等に本人の同意の下で共有できる「保健医療記録共有サービス」13とさらに基礎的な患者情報を救急時等に活用できる「救急時医療情報共有サービス」14 を実施し、加えて個人自らの経年的な医療情報をPHR(Personal Health Record)として自身の端末で閲覧できる計画15(Slide 6 参照)もある。
 これらの概要については当日配布資料-2 の p.12に、閣議決定としてまとめられている16

医療情報収集のためのIDとして個人単位化された被保険者番号を使う提案

▲クリックで別タブに拡大表示slide 7
 個人毎に医療情報を集約するためには各個人に番号(識別子)を振らなければない。その識別子(医療ID)としても被保険者番号を使おうという提言がある(slide 7 参照)17

医療IDを「住民票コードからマイナンバーのインフラを利用し生成」する構想

▲クリックで別タブに拡大表示slide 8
 もちろん、別の医療IDも検討されている。
そのIDに関しても、厚生労働省医療等分野における番号制度の活用に関する研究会の報告書18では、
医療等分野の情報連携に用いる「地域医療連携ID(仮称)」は、オンライン資格確認と一体的に管理・運営するのが効率的であるなど、支払基金・国保中央会が発行機関となることに合理性がある。「地域医療連携ID(仮称)」は、患者本人を厳格に確認した上で利用する観点から、個人番号カードによる資格確認したときに、保険医療機関等に発行する仕組みが考えられる。
と、オンライン資格確認システムを使い、言い換えればマイナンバーのインフラを使用して生成することを勧めると受け取れる提言が出されている。
 だが、そもそも、マイナンバーは医療に使えないはずではなかったか。

マイナンバーは医療に使えないはずではなかったか

 2011年の「社会保障・税番号大綱」(政府・与党社会保障改革検討本部、2011年6月30日)19 には、以下のようにある。
 第4 情報の機微性に応じた特段の措置
 社会保障分野、特に医療分野等において取り扱われる情報には、個人の生命・身体・健康等に関わる情報をはじめ、特に機微性の高い情報が含まれていることから、個人情報保護法成立の際、(中略)医療分野等の個別法を検討することが衆参両院で付帯決議されている。
◯個人情報保護法 付帯決議抜粋(衆議院)20
五 医療、金融・信用、情報通信等、国民から高いレベルでの個人情報の保護が求められている分野について、特に適正な取り扱いの厳格な実施を確保する必要がある個人情報を保護するための個別法を早急に検討すること。(下線は筆者)
 上記からわかるように、医療情報にマイナンバーは使えないことになっている。個別法を作っての対応が必要とされている。被保険者番号、または別の医療IDとマイナンバーとは違う番号だからといって使ってよいのだろうか。前者は初めからマイナンバーと対になっており、後者もマイナンバーのインフラを使い作成されている番号で、マイナンバーと容易に紐付けされうる番号なのだ。

V 問題点は?

▲クリックで別タブに拡大表示slide 9
 「被保険者番号」、または別の医療用IDという全国一元管理された番号に医療情報を集積することは、マイナンバーと違う番号だとしても危険性はないのだろうか?
 もともと医療用IDは場面に応じて作成、すなわち統一的IDではなく複数のIDを使い分けることが考えられていた21

日本医師会・日本歯科医師会・日本薬剤師会の声明

 個人の生涯の医療情報等(遺伝子情報を含む)をすべて被保険者番号に集約するわけだが、唯一無二の番号と医療記録の関連で、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会からなる三師会は声明22の中で、以下のように言及している。
◯医療等IDにかかる法制整備等に関する三師会声明(2014年11月19日)
(抜粋)
 機微な医療情報を管理する番号がマイナンバー制度の個人番号のように悉皆性を持ち唯一無二であると、過去から現在治療中の病気、死後にいたるまで紐付けできるということになる。場合によっては、一貫した記録として取り出せることになり、デジタルデータとして漏洩してしまった場合取り返しのつかないことになることが容易に予測できる。
 一生涯の病歴の中には、"誰かが"見ることのできる可能性がわずかでもある限り、記録に残したくないものもある。これまでは医療機関の内部や、異動先の保険者に、病歴が分散して一定期間保持されるだけであった。悉皆性、唯一無二性の番号により、特に信頼する医師以外には教えたくない自身の全病歴が、もれなく名寄せされてしまう可能性について、拒否の意を示す世論が今後沸き起こることは想像に難くない。
 そのため医療等 ID には、悉皆性、唯一無二性を原則とせず、国民が必要とした場合に、「忘れられる権利」、「病歴の消去」、「管理番号の変更」、「複数管理番号の使い分け」等が担保されるよう議論が必要である。(下線は筆者)
 医療に携わるものとして、患者さんのプライバシーを守ることは最重要点である。そのプライバシーを統一番号に集約することは重大なプライバシー侵害の危険性があるから避けるべきである、といっているわけである。
 この点から考えても、被保険者番号を医療IDとして、医療情報集積に使うべきではないことがわかる。個人単位化された被保険者番号は初めからマイナンバーと1対1で対応しているのでマイナンバーを医療IDとして使うことと本質的な差異はない。   

日本医師会検討会による、制限された自己情報コントロール権

 一方、個人がひとつの番号に集積された自分の医療情報をコントロールできる仕組みも考えられてはいる。日本医師会の報告書23 には次のような記載がある。
② 本人が情報にアクセス可能な仕組みを検討する
 医療等ID を付与した情報に関して、原則、本人がアクセス可能な仕組みとする。また、本人が知られたくないと思った場合や忘れたいと思った場合に、それまでの情報との名寄せや検索ができない仕組みを担保する。仕組みとしては、単純に医療等ID を変更する方法やアクセスコントロール権を患者自身に与える方法等を検討する。……
しかし、これに続けて以下の記載がある
…… ただし、診療に必要な情報を秘匿されてしまうなど、医療提供自体に影響が及ぶことがないように、一定程度の制限や第三者による審査や確認の仕組みを組み入れる必要がある。(下線は筆者)
 つまり制限つきのコントロール権でありプライバシー遵守の観点からは不十分であるといわざるを得ない。

EUの「一般データ保護規則」(GDPR)

 個人データの保護に関して、欧州連合(EU)の「一般データ保護規則 General Data Protection Regulation(以下、GDPR)」24 が2018年5月25日から施行された。GDPR は個人データの保護と自由な流通に関する規則である。
 その中に、市民の権利の尊重として、情報権、アクセス権、訂正権、削除権(忘れられる権利)、制限権、データポータビリティ(自分のデータを持ち運びできる)の権利、異議権、およびプロファイリングなどの自動化された決定を拒否する権利とあり、訂正権や削除権、制限権は市民の保障されるべき権利であると宣言されておりこの点からの検証も必要であろう。

医療機関が検査結果や処方内容を業者に提出する、新しい法制度

 おりしも、あまり話題になってはいないが、本年5月、次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)25 が施行された。医療機関が診療の生情報(検査結果や処方内容)を業者に提出し、匿名加工された上で色々な製薬メーカー他の業者や各研究機関に渡し、利活用するための法律である。
 警戒しなければいけないのは、患者が拒否しなければ同意したとみなし、医療機関は事業者に情報を提供できることである。
 また患者は自分の医療情報を提出拒否も出来るが、いったん提出した情報の削除を求められたときは、「本人を識別可能な情報は可能な限り削除」とされており、個人の削除権は制限されている。もちろん、いくら後で匿名加工するといっても医療機関から診療の生情報が外部に出るということの危険性は重大である26

医療情報の漏洩やサイバー犯罪の危険性

人質ウィルス(ランサムウエア)や情報漏洩の危険
 2016年2月ロサンゼルスの病院が特殊なウイルスによりシステムが人質にとられ、復旧するため多額の身代金を払ったという事件があった27
 データを暗号化して読めなくし、復旧に必要として金銭を要求する「ランサムウエア」(身代金要求型ウイルス)による被害が世界各地で起きているとのことである。トレンドマイクロ社によると、漏洩の件数は医療業界が最多で、2015年には合計約1億1300万件の医療記録が窃取されたとのことである28
EHR(生涯健康医療電子記録)がさらされる脅威
 政府が推進するEHRが狙われた場合、被害のほどは想像もつかない。
 医療情報等を電子化し集約することは、計画通りに運用されても大きな問題 がある上、もし悪意の対象になった場合、クレジットカード番号等の漏洩とは次元の違う被害をもたらす危険性がある。
 なぜなら、医療情報はクレジットカード番号等とは違い、いったん漏れたからといって変更できるものではない。また個人のみならず、家族、親戚まで波及し、いわれのない、社会生活上の障害、差別につながる危険性を秘めているからである。

最後に

 ナチスドイツでは、優生学思想に基づいた安楽死政策により20万人の犠牲者がでたとされる。医師が主導したともいわれるこの事件の記憶のためか、ドイツでは医療情報の国家管理は厳しく制限されているときく。他方、我が国では、国民の健康増進や研究、産業振興という目的で医療情報を一元管理し利用する勢いがますます強くなっている。医療情報を守るべきものではなく、利用するものとしてとらえている感すらある。
* *
 医療情報を電子化し一元管理し利活用することは利点もあるかもしれないが、大きな危険も孕んでいる。その基盤となる、被保険者番号の個人単位化と保険証資格のオンライン確認、このまま進めてよいものだろうか? 国民全体で考える必要があるのではないだろうか?

付記

*マイナンバー制度では、当初医療情報の利用は災害時に限定されていた。災害時、以前の情報がなければ診療が困難なため、蓄積しておくのだと。しかし、災害時に回線や機器が使えると限らない。さらに、診療現場では内服状況や簡単な病歴があれば診療に大きな障害はないという声もある。そうすると巨大なシステムでなくてもお薬手帳程度で用が足りることになる。

*全国癌登録は2016年1月より始まっている。国内に医療機関で癌と診断された全例を登録する制度だが、統一IDはなく、個人識別は生年月日、住所等で行われている。しかし、将来統一IDを使用する余地は残されている。

*当日配布資料-1 p.12〜14 「マイナンバー制度と医療」は拙稿ですが、カルテ(診療記録)の共有化がなされた場合の患者さんのプライバシー侵害について述べています。ご参考までに。

参考文献

◯本文中の注は、このページ末尾に収録しています

  1. »「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 報告書」
    2015.12 厚生労働省情報政策担当参事官室
    »同報告書(概要)    
  2. »「医療分野等ID導入に関する検討委員会 中間とりまとめ」
    2015.7 日本医師会 医療分野等ID導入に関する検討委員会     
  3. »「医療等分野のIDのあり方に関する報告書」
    2016.6 日本医師会 医療分野等ID導入に関する検討委員会    
  4. »「医療等IDに係る法制度整備等に関する三師会声明」
    2014.11.19 日本医師会、歯科医師会、薬剤師会    
  5. »「個人データの取り扱いに係る自然人の保護及び当該データの自由な移転に関する欧州議会及び欧州理事会規則(一般データ保護規則)」
    (一般財団法人日本情報経済社会推進協会 仮日本語訳 2016.8)    
  6. »「オンライン資格確認等について」(2017年版)
    2017.11.8 厚生労働省保険局(参考文献 11「オンライン資格確認等について」2018年版とは、内容が異なります)    
  7. »「次世代医療基盤法の施行に向けた検討の状況について」
    内閣官房健康・医療戦略室    
  8. »「総務省における医療等分野のICT利活用について」
    2016.10 総務省    
  9. »「総務省が推進する医療ICT政策について」
    2017.10.14 総務省情報流通行政局情報流通高度化推進室    
  10. »「共通番号の危険な使われ方」
    2015.3.20 白石孝他編著 現代人文社    
  11. »「オンライン資格確認等について」(2018年版)(参考文献 6「オンライン資格確認等について」2017年版とは、内容が異なります)
    2018.5.25 厚生労働省保険局(当日配布資料-2 に収録)    
  12. »「データヘルス改革に関する平成30年度予算案について」(抜粋)
    2018.1 厚生労働省データヘルス改革推進本部    
  13. »「特定健診データの保険者間の引継ぎ、マイナポータルを活用した特定健診データの閲覧について」
    2018.3.30 厚生労働省保険局医療介護連携政策課   

Note

*1 総務省Webサイト »「ICT利活用の促進」 (リンク切れなどで見つからない時は »こちら)

*2 slide 1 : »当日配布資料-1 のp.1 に収録(「【参考】ICT化による医療費適正化効果の将来推計<電子カルテ、EHR、遠隔医療システム(健康管理サービス)>」 このスライドの出典は下記)。
総務省 » 「医療分野のICT化の社会経済効果に関する調査研究 報告書」 2012.3

*3 » 首相官邸「産業競争力会議課題別会合」2015.5.29

*4 » 首相官邸 「『日本再興戦略』改訂 2015 ー未来への投資・生産性革命ー 第一 総論」 2015.6.30

*5 »当日配布資料-2 「オンライン資格確認等について」の下記スライドを参照
p.1「オンライン資格確認の導入によるメリット」
p.2「被保険者番号の個人単位での履歴管理」
p.3「個人単位の番号付きの保険証様式案」

*6 slide 2 : 前出 当日配布資料-2 厚生労働省保険局「オンライン資格確認等について」 p.1「オンライン資格確認の導入によるメリット」 部分(このスライドの出典は下記)。
厚生労働省保険局 »「オンライン資格確認等について」2018.5.25

*7 前出 当日配布資料-2 厚生労働省「オンライン資格確認等について」 p.10 「オンライン資格確認等の運用コスト試算(精査中)」参照

*8 前出 当日配布資料-2 参照

*9 » 首相官邸「『日本再興戦略』改訂 2015 ー未来への投資・生産性革命ー 第二 3つのアクションプラン/第三 改革のモメンタム」2015.6.30 p.145 「② 医療・介護等分野におけるICT化の徹底」参照

*10 slide 2 : 前出 当日配布資料-2 厚生労働省「オンライン資格確認等について」 p.6 「特定健診データの保険者間の連携、マイナポータル等の活用(イメージ)」参照

*11 slide 4 前出 当日配布資料-1 のp.9に収録(このスライドの出典は下記)。
総務省 » 「総務省における医療等分野のICT利活用について」 2016.10 p.3「① クラウド型EHR高度化補助事業」

*12 Slide 5 : 厚生労働省 » 「全国保健医療情報ネットワーク・保健医療記録共有サービス関係参考資料」 2018.4.19 p.1「データヘルス改革で実現を目指すサービス①、②(保健医療記録共有 、救急時医療情報共有)」

*13 同前

*14 同前

*15 Slide 6 : 総務省» 「総務省が推進する医療ICT政策について」 p.16「手帳文化を活かしたPHR ~生涯データの活用~」。p.17「PHRサービスモデル等の構築」も参照

*16 前出 当日配布資料-2 厚生労働省 「オンライン資格確認等について」p.12 「(参考1)オンライン資格確認、個人の保健医療情報の履歴管理等に関する閣議決定」の「◯未来投資戦略2017」の項。当該閣議決定は、首相官邸 »「未来投資戦略2017」 (2017.6.9)

*17 slide 7 : 前出 当日配布資料-1 p.4 「被保険者番号の可能性」(このスライドの出典は以下)
(前出とは別の2017年版)厚生労働省 » 「オンライン資格確認等について」 2017.11.8 p.4
また、前出 当日配布資料-1の以下のスライドも参照
p.4「被保険者番号の活用可能性」(出典 : 当日配布資料-2とはことなる(2017年版の)厚生労働省 » 「オンライン資格確認等について」)p.4
p.5「データヘルス改革の基盤整備(被保険者番号の個人単位化・オンライン資格確認)」(出典 : »「厚生労働省が進めるデータヘルス改革の取組状況」 p.9)

*18 slide 8 : 前出 当日配布資料-1 末尾ページ「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会報告書(概要)」(スライドの出典は下記)
厚生労働省 » 「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会報告書(概要)」 2015.12 p.1

*19 政府・与党社会保障改革検討本部 » 社会保障・税番号大綱 p.55「第4 情報の機微性に応じた特段の措置」(このリンクは総務省webサイト上の資料)

*20 衆議院本会議 » 「個人情報の保護に関する法律案に対する附帯決議」(2003.5.6 衆議院本会議にて採択)(このリンクは総務省webサイト上の資料)

*21 slide 9 : 前出 当日配布資料-1 p.10 「医療等分野の識別子(ID)の体系のイメージ」(このスライドの出典は以下)
厚生労働省 » 「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会報告書(概要)」 2015.12 p.17

*22 日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会 » 「医療等IDにかかる法制整備等に関する三師会声明」 2014.11.19

*23 日本医師会医療分野等ID導入に関する検討委員会 » 「医療等分野のIDのあり方に関する報告書」 2016.6 p.3

*24 » 「個人データの取り扱いに係る自然人の保護及び当該データの自由な移転に関する欧州議会及び欧州理事会規則(一般データ保護規則)」 一般財団法人日本情報経済社会推進協会仮日本語訳 2016.8

*25 » 「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」 2017年法律第28号

*26 前出 当日配布資料-1 p.11 朝日新聞 「『医療ビッグデータ』提供へ始動 カルテなど集めて匿名化 企業・研究機関に」2018.4.22

*27 ITmediaエンタープライズ » 「ランサムウェアに感染した病院、身代金要求に応じる」2016.02.19 参照

*28 TREND MICRO » 「医療業界が直面するサイバー犯罪とその他の脅威」2017.7.26 参照(会員登録が必要)

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