マイナンバーはいらない

post by nonumber-tom at 2016.8.10 #134
情報連携 学習会報告

5 情報提供ネットワークシステム以外の
 マイナンバーによる照会・連携

「マイナンバー(共通番号) 不安だらけの情報連携」学習会報告(6)

原田富弘
 

 特定個人情報を提供できる場合を、番号法19条で15項目規定している。情報提供ネットワークシステムによる提供はその一つだが、その他は符号ではなくマイナンバーが提供され照合に利用される。その中から4つを見ていく。[71-72]

  • ・国税・地方税連携システム
  • ・個人番号関係事務での情報の受け渡し
  • ・特定個人情報が刑事事件捜査等で提供
  • ・個人情報保護委員会規則による提供拡大

5-1 国税・地方税連携システム

 番号法19条9で、国税庁・都道府県・市町村間の、国税又は地方税に関する特定個人情報を提供を規定している。

▲クリックで拡大/縮小slide 73

 市町村では国税庁(税務署)から確定申告の情報提供を受けて、その他の資料と合わせて税額を決定している。現在は住所・氏名・生年月日等で名寄せして同一人であることの確認をしている。この従来行われている情報連携にマイナンバーを付けて提供することで、名寄せが効率的に正確に行われることを期待している。このように税務関係では、マイナンバーをつかって国税と地方税の連携が行われる。[73-75]

5-1-1 税情報の守秘義務と情報連携

▲クリックで拡大/縮小slide 76

 一方他の関係機関とは情報提供ネットワークシステムを使って、たとえば障害者関係情報の提供を受けたり所得情報の提供をしたりする。その際、地方税法の守秘義務と番号法22条の提供義務との関係が問題になる。地方税法第22条で税情報の漏洩は通常の地方公務員法より重罰化され、提供にはより強い規制がかかっている。[76]

 国の説明では、2つの場合だけ税情報の提供が認められる。

  • 1)利用事務の根拠法律で、本人が行政機関に報告を行う義務が規定されている場合
  • 2)提供に本人が同意している場合

 番号法で情報連携が法定されている事務は1)に該当し、提供しても守秘義務違反は生じないとされているが、別表第ニに列挙されている事務がすべてそれに該当するかは不明である。個人情報保護委員会が自治体の独自利用の情報連携について 2016年2月22日に自治体に示したQ&Aでは、「番号法第19条第7号の情報連携の場合も本人同意が必要になると聞いております」と回答し、本人同意が必要な事務について、別表第二の主務省令で定める事務及び情報を定める命令(平成26年内閣府・総務省令第7号)第60条に基づく内閣府・総務省共同告示において明文で規定されると聞いていると説明している(Q6-1、6-2)。

 一方、自治体が独自に条例で定める利用事務では、1)に該当せず本人同意が必要になる。しかし情報提供側が、この本人同意がされていることをどのように確認するのか明確ではない。同意がないまま税情報を提供すれば、提供側の自治体が守秘義務違反に問われる。

5-2 個人番号関係事務での情報の受け渡し

 「個人番号関係事務」とは、個人番号利用事務(法別表第一と自治体条例事務)の処理に関して必要とされる範囲で個人番号を利用して行なう事務である。番号法第19条の1では、個人番号利用事務実施者が個人番号関係事務実施者に提供すること、2では、個人番号関係事務実施者が特定個人情報を提供することを規定している。[72]

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 2015年9月の番号法改正で、特定健診・保健指導がマイナンバーの利用事務に追加された。この健診や保健指導のデータは、高齢者の医療の確保に関する法律で、健康保険組合などを異動した場合に引き継いで利用される。その引き継ぎは異動前と異動後の保険者が相対でそれぞれ求めをし、求められた保険者は本人の同意を得た上で写しを光ディスクなどで送付することで行われている。マイナンバーが付番されてもこの引き継ぎ自体は変わらないが、マイナンバーによりデータの照合が容易になると国は説明していた。[77]

 しかしいずれはデータの引き継ぎを効率化するために、「光ディスク等の受け渡し」でなく保険者間に提供のための回線をつないで、マイナンバーにより提供依頼をするということも考えられる。そうすると情報提供ネットワークシステムの外に、関係事務実施者間や関係事務-利用事務実施者間でマイナンバーを使って情報連携する仕組みができてしまう。こういう事態を禁止する規定は、番号法に見当たらない。

5-3 特定個人情報が刑事事件捜査等で提供

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 番号法第19条の12(2015年の法改正後は13)で、刑事事件の捜査や「政令で定める公益上の必要があるとき」に特定個人情報の提供が認められ、第9条5で、提供を受けた者はその提供を受けた目的を達成するために必要な限度で個人番号を利用することができるとなっている。[78]

 平成26年3月31日に出された政令第155号の第26条の別表で、この「公益上の必要がある場合」が26項目列挙されているが、破壊活動防止法、国際捜査共助等に関する法律、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律など、治安対策法がズラッと並んでいる。[79]

 個人情報の外部提供は法令に定めがある場合など以外は原則禁止されているが、行政機関が捜査関係事項照会を受けた際に、この19条は特定個人情報の提供を認める「法令の定め」となるかを、2012年にやぶれっ!住基ネット市民行動が質問している。回答は刑事訴訟法第197条の規定に基づく「捜査関係事項照会」は番号法のこの規定に該当するため、これに応じて特定個人情報を回答(提供)することは可能だが、出入国管理及び難民認定法 28 条の規定に基づく照会は「刑事事件の捜査」ではないため、これを根拠として提供はできないというものだった。[80]

▲クリックで拡大/縮小slide 81

 なぜこのような提供が番号法に入っているかについて、逐条解説では調査等の対象である資料に特定個人情報が含まれる場合を想定していると説明している。しかし番号法にはこのような限定は書かれていない。福島みずほ参議院議員の質問主意書に対しては、提供を受けた特定個人情報の利用の目的と限度は個別具体的な事案に即して判断されるべきものであり、あらかじめ「判断基準」を示すことはできないと回答している。恣意的な利用が可能だ。またその回答では、警察等に提供された特定個人情報は特定個人情報保護委員会の指導助言、勧告命令、報告立入検査の適用除外であり、情報提供等記録開示システム(マイナポータル)の対象とはならないと回答している。特定個人情報ファイルを保有するときは、特定個人情報保護評価を実施する必要があると説明しているが、その評価書が公開されることは期待できない。結局押収された資料等は、刑事訴訟法その他の関係法令に基づき扱われるというだけであり、個人情報保護措置の枠外だ。[81]

 「国家による監視」がもっとも懸念されるところで、番号法の個人情報保護措置は機能していない。

5-3-1 刑事事件捜査等の提供と個人情報保護条例改正

 さらに自治体の個人情報保護条例改正で、警察等に個人情報がオンライン提供可能になるおそれが出ている。東京都は2015年暮れ、従来は保有個人情報をオンラインで外部に提供することを原則禁止していた個人情報保護条例を、原則提供可能に改正した。法令の定めがある場合など例外規定がもともとあるため、条例改正しなくて番号法に対応できることは都も承知している。ただ番号法では特定個人情報の情報連携はオンラインで行うことを原則としており、都の条例の考え方と相反しているので改正すると説明している。

▲クリックで拡大/縮小slide 82

 さらに都の個人情報保護審議会の宇賀会長や番号法作成の実務を担当した水町弁護士などが執筆した「自治体職員のための番号法解説[実務編]」(第一法規)には、「地方公共団体においては、番号法19条各号に列挙された場合であれば、特定個人情報のオンライン結合等を可能とするよう定めることが求められる」と書かれている。警察や公安機関と自治体をオンライン回線でつなげて住民情報を提供することになりかねない。[82]

 このオンラインによる外部提供を禁止する規定は、1970年代に国民総背番号制に反対する運動が高まるなかで、住民情報の電算処理を住民に認めてもらうために、国民総背番号制につなげない歯止めとして自治体が独自に制定していったものだ。その歯止めが崩れていく。

5-4 個人情報保護委員会規則による提供拡大

▲クリックで拡大/縮小slide 83

 番号法19条14(改正後15)では、「その他これらに準ずるものとして個人情報保護委員会規則で定めるとき」に提供を認めている。すでに2015年7月にこの規定に基づき、番号法第19条第12号に準ずるものとして行政書士法や税理士法、社労士法による調査・検査などの提供が追加されている。なぜ番号法の改正という手続きをとらないのか。番号法にも政令にも条例にも規定のない提供が、委員会規則で可能になっている。そのため委員会の「恣意」で提供が拡大し、市民には提供利用がますますわからなくなる。しかもよりによってこの19条12には警察や公安への提供が入っており、今後この第12号提供が恣意的に拡大される危険性さえ感じる。[83]

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