政府は消費税増税にともなう景気対策として「マイナポイント」というマイナンバー制度を使ったプレミアム付きポイントを実施し、「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」を構築しようとしています。
しかしマイナポイントは消費税対策として疑問であるばかりか、個人の消費状況を把握して徴税を強化したり、個人情報の利用や国家監視に使われるなど様々な危険があります。こんな制度はいりません。
[1]マイナポイントとは何か
「マイナポイント」は、総務省が作った「マイキープラットフォーム」と「自治体ポイント管理クラウド」という仕組みを使い、「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」の構築を目指すものです。
ねらいは「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」の構築
政府は2019年9月3日の第5回デジタル・ガバメント閣僚会議(議長:菅官房長官)で、消費税増税に伴う需要平準化策として、国費でプレミアムポイントを付ける「マイナポイント」を実施し「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」の構築を目指すことを決めました1。
消費増税対策として一定期間プレミアムポイントを実施するとしている
消費税増税対策として2020年3月まで低所得者や子育て世帯対象のプレミアム商品券を実施し、6月まで中小店舗のポイント還元策を実施したあと、消費の反動減対策として一定期間マイナンバー制度を使ったプレミアムポイントである「マイナポイント」を実施するとしています。
「マイキープラットフォーム」と「自治体ポイント管理クラウド」
この「マイナポイント」は、総務省が作った「マイキープラットフォーム」と「自治体ポイント管理クラウド」という仕組みを使います。
マイナンバーカードと公的個人認証を使って、自治体の各種カードを一本化するシステムです。行政の効率化や地域経済の活性化に使用すると言っています。図書館の貸し出しカードなどでも使うそうです。
マイナンバーカードを使って自治体の独自カードを一本化する
「マイキープラットフォーム」は、マイナンバーカードの利活用策として総務省が作り、2017年9月25日から稼働しています。
▲クリックで拡大/縮小
マイナンバーカードのICチップの空きスペースと公的個人認証(電子証明書)の部分を「マイキー部分」と称して、独自の「マイキーID」で個人データを管理し、自治体毎に発行している各種カードを一本化して行政の効率化や地域経済の活性化に使用するというもので、犬の「マイキーくん」を広報キャラクターにしています(右のスライドをクリック)2。
マイキープラットフォームは、自治体ポイントの他に各自治体のカードの一本化を目的にして、図書館の貸し出しカードなどでも使用されています3。
自治体ポイントの管理を国が主導してクラウド化
この地域経済活性化として、マイキープラットフォームと連動した「自治体ポイント管理クラウド」も同時に始めました。各市町村でボランティア活動や健康体操など地域活動を支援するために参加者に付与しているポイントを総務省の作った「自治体ポイント管理クラウド」に登録するとともに、民間企業(地域経済応援ポイント会社)のポイントやマイレージを自治体ポイントに変換し、地域商店街での買い物やふるさと納税の「めいぶつチョイス」などに利用しようとするものです。
なぜマイキープラットフォームは利用が広がらなかった?
広がらない理由はメリットに乏しかったことに加え、利用がわかりにくくめんどうだったためです。
マイキープラットフォームの利用のためには、自治体が「マイキープラットフォーム運用協議会」に加入する必要があります。
マイキーID発行者数はわずか14,937人
マイキープラットフォーム運用協議会は2017年8月30日に作られましたが、参加する自治体は少なく2018年12月末で270団体、2019年6月27日現在でも532団体で加入率29.7%に留まっていました。
マイキープラットフォームを使っている自治体はさらに少なく、2019年6月3日現在で101団体、そのうち自治体ポイントを利用しているのは69団体で、マイキーID発行者数はわずか14,937人です4。
メリットに乏しく使いにくい
広がらない理由はメリットに乏しかったことに加え、利用がわかりにくくめんどうだったためです。
マイナポイントに向けて政府は、6月28日と7月31日に自治体に参加を求める通知5を出しています。9月12日のマイナンバーカード交付円滑化計画等に関するブロック会議では、9月10日現在では876団体が加入し加入率48.9%になったと報告していますが、半数はまだ参加しておらず、地域によって加入率は大きく違います。
マイナポイントを使うためには、自治体がマイキープラットフォーム運用協議会に参加し利用システムを整備しポイント利用の設定をしなければなりません。そのうえ、各商店は端末とカードリーダを用意し、ソフトをインストール、IDやパスワードも登録しておく必要があります。自治体とのポイント清算の事務も発生します。
マイナポイントを使うためには、まずマイキープラットフォームを利用できるようにしなければなりません。
自治体の作業・負担がたいへん
自治体がマイキープラットフォーム運用協議会に参加し利用システムを整備しポイント利用の設定をしていることが前提です。自治体ではさらに利用できる店を開拓したり、自治体ポイントのための歳入・歳出の予算を組むなど、大きな負担がかかります。
小売店・商店街の作業・負担もたいへん
商店街なども自治体ポイントを使う端末を設置しカードリーダを用意し、マイキープラットフォーム等活用ソフトをダウンロードしてインストールし、自治体から配布された端末IDやパスワードを登録しておく必要があり、自治体とのポイント清算の事務も発生します。
利用者はもっとたいへん(1): マイナンバーカードの取得が必要
利用者はもっと大変です。マイナンバーカードを申請して取得し、公的個人認証の電子証明書を設定し、さらにマイキーIDを設定する必要があります。マイナンバーカードを取得するためには申請して1か月以上かかり、本人確認書類を持参して役所の窓口に行く必要があります。番号法施行令では「住所地市町村長は・・・交付申請者に対し当該市町村の事務所への出頭を求めて個人番号カードを交付する」(13条)となっています。
利用者はもっとたいへん(2): 電子証明書の設定が必要
カードを受け取る際、「署名用電子証明書」のパスワード6~16桁と、利用者証明用電子証明書・住基・券面事項入力補助の3種類の4桁のパスワード(3種類は同番号でも可)を設定しなければなりません。紙にメモしてマイナンバーカードと一緒に保管していると、紛失したときにマイナポータルに不正アクセスされ個人情報が漏えいする危険があります。
利用者はもっとたいへん(3): マイキーIDの登録が必要
次にマイキーIDの設定のためにパソコンと公的個人認証サービス対応のICカードリーダライタを用意し、マイキーID作成・登録準備ソフトをダウンロードしインストールした上で、マイナンバーカードを使いマイキープラットフォームのサイトでマイキーIDの作成が必要です。作成のためには利用者証明用電子証明書のパスワードを入力し、他と重複しない8桁のマイキーIDを入力するか自動生成し、6~16桁の利用者マイページログイン用パスワードを入力する必要があります。さらに民間のポイントやマイレージから自治体ポイントに移行するためには、どの会社のポイントからどこのポイントに変換するかの設定も必要です。
だめな設計を手直ししても、効果は期待できない
このように手続きの負担が大きいため政府は見直しを検討中ですが、マイキープラットフォームの利用設定などは避けられず、どの程度簡易になるか疑問です。
各商店の毎月の清算手続きや協定締結、宣伝など、多くの業務負荷が発生します。既存のポイントカードを経験している商店街ならともかく、経験のない商店や商店街に展開するには、多くの人的負担費用負担などが発生するのに、小売店から見ると費用対効果が見えないためです。
総務省は自治体ポイントの実証実験を各地で行ってきましたが、利用が広がりませんでした。
運用協議会副会長の川崎市でも
マイナポイントに移行したのは4か月で17人
たとえば市長がマイキープラットフォーム運用協議会の副会長でモデル的な自治体だった川崎市では、4カ月間の実証実験期間中にポイント移行したのはわずか17人で「自治体ポイント 市内実験 普及進まず 手続き複雑、交換実績17件」(「タウンニュース」 2018.6.29)6 と報じられ、実験が1年間に延長されました。
8割の小売店が参加した商店街も事業を終了した
豊島区では17年11月から18年3月までの5カ月間の実験期間中に新規の利用者はわずか15人で、金券発行などの手間の割に得られる利益が少ないと、8割の商店が加盟する商店街は3月で事業をいったん終えたと報じられました(「日本経済新聞」 2018.5.7)7。
前橋市では、国から数百万ポイントの利用が見込めると言われていたのに、2017年9月からの1年間で使われた自治体ポイントは54万5450ポイントで開きが大きいと報じられています(「読売オンライン」 2019.1.30)8。
地域経済活性化につながらない実態:川崎市の実証実験報告
川崎市の実証実験報告書9では、2017年11月20日~2018年11月30日の実験期間でポイントを取得したのは23人で、一人で37万ポイント(1ポイント=1円)を利用したユーザーを除くと10万ポイント以下の利用状況で、地域経済活性化としては効果に課題が残ったと総括しています。
一方負担としては、毎月の清算手続きや商店街との打合せや協定締結、広報活動など、市の職員や商店街の担当者に業務負荷が発生しています。もともと実験に参加した商店街は独自のポイントカードを発行するなど実績があったため比較的スムーズな対応が可能だったが、他の商店街に展開するにはさらに事務局などの人的対応や機器の導入など費用負担を含めた課題があることを指摘し、費用対効果を慎重に見定める必要があるとしています。
「マイナポイント」は今までの自治体ポイントとどこが違う?
従来の自治体ポイントは、地域の活性化や地域経済の振興と強く結びついていました。それに対してマイナポイントは、地域経済の枠を超えて民間のクレジットやキャッシュレス決済手段を導入し、国の予算でプレミアムをつけるなどによって、「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」の構築を目指すものになっています。
2019年9月3日の第5回デジタル・ガバメント閣僚会議では、マイナポイントについて簡単な検討の方向性が示されただけで、具体的な制度設計については9月に官民タスクフォースをつくり、10月から関係省庁・決済事業者・地方自治体で検討するとなっています10。
違いは、「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」と国の資金によるポイント付与
9月3日のデジタル・ガバメント閣僚会議で決定された仕組みのイメージが従来の自治体ポイントと違う点は、
- *ポイントの取得が自治体の地域活動への参加と民間の地域経済応援ポイント会社の余剰ポイントやマイレージからの移行に限られていたのを、利用者が前払いやクレジットなどによって直接取得できるようにする
- *取得したポイントに対して、国費でプレミアム分を付ける
- *○○ペイのような民間のキャッシュレス決済手段を使い、店舗ではスマホによるQRコード決済などでもポイント利用を可能にする
- *「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」の構築を目指す
などです。
自治体支援金のポイント支給も想定した、国のシステム
6月21日に閣議決定された「骨太の方針2019」11では、行政サービスと民間サービスの共同利用型キャッシュレス決済基盤としてマイキープラットフォームと自治体ポイント管理クラウドを官民で活用し、国や地方自治体が実施する子育て支援金などの各種現金給付をポイントで行うことも視野に入れ、将来的な拡張性や互換性も担保したナショナルシステムとしての基盤を目指すとなっています。
マイキープラットフォームや自治体ポイント管理クラウドを使うこと以上の具体的な制度設計は、これから検討するということです。ポイント還元率や利用の上限、実施期間なども未定です。
総務省は2019年9月30日、マイナポイントを検討する会議を初めて開き、年内にもシステムの詳細を決め、参加する事業者を募る方針とのことです。還元する金額の上限や対象人数も検討する予定です。12
具体的な制度はこれから検討する
具体的な仕組みはこれからの検討ですが、マイキープラットフォームや自治体ポイント管理クラウドを使うことは変わりません(自治体ポイント管理クラウド上では、既存の自治体ポイントとマイナポイントは別々に管理されるが、合算して使用可能と自治体には説明されています)。
第5回デジタル・ガバメント閣僚会議前に政府から報道機関に対し、入金2万円に対して5000ポイント(25%)を提供する案などが情報提供されてあたかも既定方針のように報じられていますが、ポイント還元率や利用の上限、実施期間などもこれから検討です。