[2]マイナポイントの導入に反対する
ポイント還元はキャッシュレス決済利用者に限られ、参加小売店も少ないので、効果は不明です。また、富裕層にポイント還元することになるため、消費税の特性である課税の「逆進性」をポイント還元は強めます。
2015年の消費税対策では、費用対効果はマイナスだった
消費税増税による消費の落ち込みを防ぐためとして、キャッシュレス決済利用時に中小店舗での5%または2%のポイント還元が2019年10月1日から実施されていますが、どの程度の効果があるか不明です。2015年に消費税率を5%から8%に引き上げた際に約2400億円を投じてプレミアム商品券などの経済対策を実施したが、消費喚起効果について内閣府は1019億円、民間のみずほ総合研究所は640億円程度と分析していると報じられています(朝日新聞 2019.9.19)13。
今回ポイント還元に当初から参加した小売店は1/4程度
制度の対象となる約200万店のうち当初からの参加は1/4程度で、今後も参加しない店舗は少なくないとみられています。
ポイント還元は消費税を富裕層に還元する「逆進性」を強める
さらにポイント還元が利用できるのは、スマホなどでキャッシュレス決済を利用している人など限られます。消費税は所得の低い人に負担が大きい「逆進性」がありますが、ポイント還元ではキャッシュレス決済を利用しない低所得者や高齢者も負担する消費税を、消費の多い比較的裕福な世帯に還元することになり逆進性をさらに強めます。店舗側も零細な店など、手数料負担のあるキャッシュレスに対応しないところも少なくありません。公平性に欠ける制度です。
マイナポイントに消費税対策としての効果はあるのか?
費用対効果はまったく不明です。消費税対策とされるマイナポイントに、多額の税金を使うべきではありません。
マイナポイントについては、マイナンバーカードの取得やマイキープラットフォームの設定など利用のハードルが高く、どれだけの人が利用できるか不明です。
消費税対策としてのマイナポイント事業費は数千億円規模
費用対効果も疑問です。総務省はマイナンバーカードを使った消費活性化策や健康保険証としての利用に向けたマイナンバーカード普及費として、2020年度予算で本年度の8倍の1736.2億円を要求しています。さらにマイナポイントの事業費は消費税率の引上げに伴う「臨時・特別の措置」として別に要求することになっており、数千億円規模になります。14
ポイント還元しても消費が活性化するかわからない(麻生財務大臣)
しかし麻生財務大臣は9月3日の記者会見で、ポイント還元の効果については不明と語っていました。
「ポイントがあってどれくらい消費が活性するかという答えがまだ見えていない段階で、そういうことを言う人がいるかもしれないし、するかもしれないよ。わからない、こればかりは。結果論だからわからない。できるであろうという予想であって、なかなかその結果が今の段階でどれくらい出るかはわかりませんな。」15
費用対効果も不明なマイナポイントに、多額の税金を使うべきではありません。
消費税対策を口実としたプレミアム付きポイントで利益誘導して、不人気なマイナンバーカードを普及させ、「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」を作ろうという意図がミエミエです。
2022年度中にほぼ全ての住民にマイナンバーカードを所持させようとしている
マイナンバーカードの交付は約1783.5万枚、普及率は14.0%です(2019年9月16日現在総務省公表値)16。昨年11月公表の内閣府の世論調査では、マイナンバーカードを取得していないし今後も取得する予定はないと回答した人が53.0%、取得しない理由は必要性が感じられないから=57.6%、身分証明書になるものは他にある=42.2%、個人情報の漏えいが心配=26.9%、紛失や盗難が心配=24.9%、申請手続がめんどう=21.3%となっています17。にもかかわらず国は、2022年度中にほぼ全ての住民にマイナンバーカードを所持させるという、無茶な方針を決めました18。
消費税対策を口実としたプレミアム付きポイントで利益誘導して、不人気なマイナンバーカードを普及させようという意図がミエミエです。
民間に任せればいいのに、「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」を作ろうとしている
仮に消費税対策としてポイント還元が有効としても、多額の費用と準備の必要なマイナポイントなどやらずに、2020年7月以降も引き続き中小事業者の店舗でのポイント還元をやればいいだけではないでしょうか。またキャッシュレス決済の普及が必要だとしても民間に任せれば済むことで、なぜ「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」を作らなければならないのでしょうか。
官製キャッシュレス決済手段は地域活性化に役立たず、趣旨が変質している
自治体ポイントやマイキープラットフォームは、もともと住民の地域活動への参加や地元の商店街の振興など、「地域活性化」を目的に作られたものです。しかしマイナポイントはどこの自治体のものも購入可能にすることが検討されており、地域活性化に役立たない単なる官製キャッシュレス決済でしかなく、趣旨が変質しています。
準備のために自治体に大きな負担がかかるので、2020年度にまにあうかは不明です。政府の実施予定時期もはっきりしていません。
政府の実施予定時期は2020年10月「以降」とも言われている
マイナポイントの実施は2020年7月以降です。当初、2020年7月から実施予定と説明されていましたが、2020年10月実施予定とも報じられています。それまでに自治体ではマイキープラットフォームの利用を準備し、利用店舗を開拓し、歳入歳出の予算を編成するなど様々な準備が必要です。制度設計を10月から検討していて、来年度に間に合うのでしょうか。
マイナンバーカードの普及を半年間で倍増するには
自治体の準備のための負担がとても大きくなる
利用の前提となるマイナンバーカードの交付を、国はマイナポイント実施に合わせ、2020年7月までに3000~4000万枚にする計画です19。3年半かかって交付した枚数を、これから半年間で倍増しなければなりません。市区町村では出張申請受付やマイキーIDの設定支援など、多くの職員の配置や研修などが必要です。
利用者目線で考えてない制度だから
自治体への苦情殺到がとても心配
またマイナポイントの購入申込みが自治体で設定した予算以上になった場合は、抽選をする予定です。従来自治体が行っているプレミアム付き商品券も抽選や先着順ですが、マイナポイントではめんどうな手続きをしてカードリーダの購入など費用負担もしてマイキーIDを設定して申込みます。抽選に外れて購入できなかったとなると、苦情が自治体に殺到するかもしれません。
マイナポイントは自治事務
実施するか否かは自治体の判断
マイキープラットフォームの利用やマイナポイントの実施は自治事務で、実施するか否かは自治体の判断です。地元の消費活性化に役立たない一過性の制度のために、自治体には大きな負担がかかります。消費税増税の対策であればマイナポイントではなく、すでに自治体で様々に実施しているプレミアム付商品券など他の手段の活用を検討すべきではないでしょうか。
J-LISはマイナンバーカード交付事務に対応できるか?
2016年のマイナンバーカード交付開始時のトラブルが
再発しない保障はありません。
手続きのめんどうなマイナポイントの利用者は少ない、という予想もあります。しかし開始間近になってマイナンバーカードの申請が殺到したら、2016年のマイナンバーカード交付開始時のような大混乱になるおそれもあります。
申請して半年たっても受け取れない人がいた
マイナンバーカードの交付
2016年1月の交付開始時には、マイナンバーカードの交付事務を行う地方公共団体情報システム機構(J-LIS)のシステムトラブルで交付が大幅に遅延する事態となり、申請して半年たっても受け取れない市区町村もあり、カード交付の滞留が解消したのは2016年11月でした20。
原因はJ-LISのカード管理システム構築にあたっての業者間の連携不足やテスト不足、OS仕様の理解不足、システムへの過信などがあったと総括され、その後システムを改善したとされています
「システム能力の不足」は解消したのだろうか?
しかしこれとは別に、市区町村からカード管理システムに過度に通信が集中すると、データの処理が大幅に遅延するトラブルが起きていました。その原因はシステムの能力不足とJ-LISは説明しています。
○障害対応後においても、性能不足があり3月上旬以降もシステム障害が継続しているように受け止められた
<カードシステムの性能に関する評価>
・3月上旬には不具合の回避方策は実施済みであったが、年度末の転出入の繁忙期において、カードシステムの能力以上の利用があった結果、システム障害が継続したように見えた
・全体バランスを踏まえた性能検証、既存システムの活用による機能上の制約、既存サービスの利用状況、当初計画(1,000万枚/年)から大幅増(1,000万枚/3か月)になった交付計画に対する考慮が不十分であった。
(地方公共団体情報システム機構第15回代表者会議配布資料21)
当初計画から大幅増を求めて原因を作ったのは総務省ですが、総務省はこの事態を受けて市町村に、J-LISへの通信が集中する「日中の繁忙時間の作業を控える」よう通知していました
22。
幸い、その後マイナンバーカードの申請が低迷したため、通信が過度に集中することはありませんでした。
やっぱり、システム能力の不足は解消されていないらしい
しかし、2019年9月になっても、J-LISは申請が集中したときのトラブルの再発を心配し、次のように市町村に申請が多くなる繁忙時間の業務を極力控えるよう要請しています。
「マイナンバー交付増に向け地方公共団体の皆様にご留意いただきたい点」
2(3)マイナンバーカードの交付前設定のオフピーク
マイナンバーカードの交付前設定については、これまで「マイナンバーカード(個人番号カード)の交付前設定等の処理に係る対応について」(平成28年3月17日及び31日付住民制度課事務連絡)等により、通信が過度に集中する時間帯(平日の午前9時30分頃~12時頃まで及び14時台の時間帯)における、処理を控えていただくよう要請されてきたとおりです。
今後、マイナンバーカードの申請増及び有効期限切れ証明書更新等が始まり、窓口業務の増大が想定されることから、10月以降の同時間帯においても、引き続き住民の方への交付処理を優先していただき、交付処理以外の交付前設定等の処理については極力控えていただくなど効率的な窓口業務を講じて頂けますようお願いします。
(マイナンバーカード交付円滑化計画等に関するブロック会議「資料2」23 2019.9.12。太字・下線はJ-LISによる)
今後申請が増加すると通信が過度に集中し、2016年の交付開始時のようなトラブルが再発しない保障はありません。
マイナポイントが不正アクセスを受けない保障はありません。マイナポイントは税金で行われるキャッシュレス決済で、漏えいや不正アクセス被害があれば税金で負担することになります。
この1年で、QRコードを使ったキャッシュレス決済が広がりました。しかしセブンイレブンの「7Pay」は、2019年7月1日の開始直後から不正アクセス被害が相次ぎ、1か月で中止に追い込まれました。2018年暮れに「100億円あげちゃう」キャンペーンで話題になった「PayPay」も、クレジットカードの不正利用が多発して利用限度額引き下げや被害額の全額補償などの対応に追われました。
セキュリティ対策をしている大企業や政府からの
大規模な漏えい事件はなくならない
世界的にも、7月にはアメリカの大手金融機関キャピタル・ワン・フィナンシャルからサイバー攻撃で約1億人以上の顧客情報が流出したり、9月にはエクアドルでほぼ全国民の名前や生年月日、出生地、住所、メールアドレス、身分証明書番号や納税者番号、銀行口座の残高情報等が漏えいするなど、セキュリティ対策をしている大企業や政府からの大規模な漏えい事件が続いています。
マイナポイントが不正アクセスを受けない保障はありません。マイナポイントは税金で行われるキャッシュレス決済で、漏えいや不正アクセス被害があれば税金で負担することになります。効果が疑問でリスクのある事業をあえて税金でやる必要はありません。
利用者の知らないうちに警察等に提供される可能性があります。「利用規約」には警察等への提供についての記載はありません。提供の可否を判断する主体もはっきりしません。
警察からの任意の照会で顧客情報は提供されてきた
今年(2019年)1月、TSUTAYAなどを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブが、ポイントカード最大手の「Tカード」の顧客情報を、警察に提供していたことが明らかになりました。会員規約への記載もなく、顧客の知らないところで提供され、公表もされていませんでした。
これは捜査令状ではなく、捜査関係事項照会により任意で、会員情報(氏名、生年月日、住所など)、ポイント履歴(付与日時、ポイント数、企業名)、レンタル日、店舗、レンタル商品名、防犯カメラの画像などを提供していたと報じられています24。
警察等への提供はTカードだけではありません。新聞報道によれば、検察当局は「捜査上有効なデータ等へのアクセス方法等一覧表」を作成し、航空、鉄道、バスなど交通各社やクレジットカード会社、消費者金融、コンビニ、スーパー、家電量販店、ポイントカード発行会社、携帯電話会社などがリスト化され、個人の生活に関わる顧客情報計約三百六十種類の大半が裁判所など外部のチェックが入らない「捜査関係事項照会」で取得できると明記されていたということです25。
運用協議会の「利用規約」には何も書かれていません
マイキーIDで管理される個人情報も、利用者の知らないうちに警察等に提供される可能性があります。マイキープラットフォームや自治体ポイント管理クラウドは、総務省が管理しています。マイキープラットフォーム運用協議会の「マイキープラットフォーム及び自治体ポイント管理クラウド利用規約」26に、警察等への提供についての記載はありません。警察等から捜査関係事項照会を受けた時に、提供の可否を判断する主体は総務省なのか、運用協議会なのか、個人情報の管理主体も明らかにされていません。
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「官民共用キャッシュレス基盤」で監視国家にならないか?
「骨太の方針2019」で政府が構築しようとしている「行政サービスと民間サービスの共同利用型キャッシュレス決済基盤」は、キャッシュレス決済の利用情報による国民監視を可能とする社会インフラになります。
中国では、行政機関も「社会信用システム」で個人の信用格付けを始めている
キャッシュレス決済化の目的は一般に、
- (1) 現金を扱うコストの削減や無人店舗化などの合理化
- (2) お金の流れを把握することによる徴税強化
- (3) 利用のたびに蓄積される個人情報のマーケティングなどへの利用や顧客の囲い込み
などが言われています。キャッシュレスによる「お得」が話題になっていますが、その「お得」は個人情報提供の対価であり、企業は顧客囲い込みや個人データ活用を期待して投資しています。
さらに最近は中国で、キャッシュレス決済の利用情報などを基に個人をランク付けてサービスに差を付けたり、行政機関も同様に「社会信用システム」で個人の信用格付けをして国家監視に利用したりする動きが話題になっています。
住民全員をカバーする個人信用スコアの導入計画(中国の計画)
中国の対外経済貿易大学国際経済研究院教授西村友作さんの『キャッシュレス国家』(文春新書)27 によれば、中国国務院は2020年までに社会全体の信用調査システムを構築する方針で、記録される情報を政府や企業が共有して経済活動や犯罪防止に使うことを目指しています。そのためにアリペイやウィーチャットペイなどのキャッシュレス決済で蓄積された利用者の決済情報を、政府が利用しようとしています。
アリペイの「芝麻信用」(ジーマ信用あるいはセサミ・クレジットと呼ばれる)28では、学歴・職歴などの身分情報や資産状況、クレジットカードなどの返済履歴、友人関係、決済サービスの利用頻度などの情報をもとに「信用スコア」を算出して個人をランク付けし、ランクによってサービスや手続きの優待を受けられるようにしています。
中国では、国家規模で民間の個人信用情報を共有する「奨励・懲罰」システムの
社会的実装も進められている
さらに国家規模で中国人民銀行が主導し、これら個人信用業務を行う8社をまとめて信用情報リソースを共有して、社会全体の信用調査システムを構築し「奨励・懲罰」システムの社会実装を推進しています。北京市では2020年末までに住民全員をカバーする個人信用スコアを導入する行動計画を発表しています。
西村教授は、現段階ではどのように運営されるのか不明だが「この個人信用スコアを最新テクノロジーと組み合わせれば、将来的には様々な可能性が考えられる。例えば、中国の監視カメラネットワーク「天網」の利用がある。」(同書p.159)と指摘しています。このようにキャッシュレス決済で蓄積される個人情報は、国家による個人の属性・動向の把握と選別に利用可能で、国家の目指す方向への奨励・動員と、それに反する者への監視・懲罰に活用していくことが可能です。
中国の動きと並行して進められる
日本の「行政サービスと民間サービスの共同利用型キャッシュレス決済基盤」
日本でも「骨太の方針2019」で政府が構築しようとしている「行政サービスと民間サービスの共同利用型キャッシュレス決済基盤」ができれば、このようなキャッシュレス決済の利用情報を国民監視に利用する可能性もあります。奇しくも中国が社会全体の信用調査システムを構築しようとしている2020年に、日本も「官民共用キャッシュレス基盤」をマイナポイントでスタートさせようとしています。
なぜ、官民共用のキャッシュレス基盤を作らなければならないのでしょうか。こんな危険なものをつくるべきではありません。